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最終更新日:2024.05.30

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トピックス 2024.05.30

【研究成果】楽観的になれば先延ばし癖は改善する!? ――新指標が明らかにする、「希望」の重要性――

2024年5月30日
東京大学

発表のポイント

  • 「今よりも未来のストレスが増えることはない」と信じる人は、深刻な先延ばし癖が少ないことを発見
  • 新指標である「時系列的ストレス観」と「時系列的幸福観」を導入
  • 楽観的な未来観を持つことが、先延ばし癖の改善に寄与する可能性が期待される

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楽観的な人の方が深刻な先延ばし癖を持ちにくい
(画像生成AI(DALL-E 3)を用いて作成)

概要

 東京大学大学院総合文化研究科の開一夫教授と、博士課程の柏倉沙耶らによる研究グループは、「今よりも未来のストレスが増えることはない」と信じる未来楽観思考の人は、深刻な先延ばし(注1)癖が少ないことを発見しました。

 本研究では「時系列的ストレス観」と「時系列的幸福観」(注2) という新指標を導入することで、先延ばし癖のある人 が未来に対して抱く印象をこれまでにない新たな切り口でより定量的に測定することが可能になりました。この研究成果から、深刻な先延ばしを減らし、将来のために行動できるようになるには、未来に希望を持つことや、希望を持てるようなサポートを受けることが重要であることが示唆されました。


発表内容

 先延ばしをすると、幸福度が下がりストレスは増大し、健康は損なわれ学業成績は低下する... 従来の研究から、先延ばしが私たちの日常生活に深く蔓延り深刻な影響を与えることが示されてきました。そのため、先延ばしを引き起こす先行要因が数多くの先行研究によって検証され、先延ばし癖のある人は一貫して「未来を軽視する傾向」があることが示されてきました。

 では、一体なぜ先延ばし癖のある人たちは未来を軽視するのでしょうか。従来の研究では、先延ばし癖のある人たちがそもそも未来に対してどのような印象を抱いているのか、未来だけでなく過去や現在も含めてどのような「時間観」を持っているのかが十分に検討されてきませんでした。そこで、本研究では、「時系列的ストレス観」「時系列的幸福観」という新たな指標を導入し、先延ばし癖のある人 の時間観をストレスと幸福度を介して測定する試みをしました。

 本研究では、過去・現在・未来にわたる様々な時間軸におけるストレスと幸福度を測定し時系列順に並べたものを、それぞれ「時系列的ストレス観」・「時系列的幸福観」と定義しました 。それぞれどのようなパターンが存在するかを調べるために類型化を行ったところ、「時系列的ストレス観」は下降型(「未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)」,descending)、上昇型(「未来にいくにつれてストレスが増える」、ascending)、V字型(「今が1番ストレスが低くて、そこから離れるにつれてストレスが増える」、V-shape)、への字型(「過去のある1点でストレスが1番高く、そこから未来にいくにつれてストレスは減る」、skewed mountain)の4種類 に分類されることがわかりました(図1A、B)。そして、この中でも特に「未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)」と感じている「下降型」グループは深刻な先延ばし癖を持つ人の割合が低いことが明らかになりました(図1C)。「時系列的幸福観」については、下降型(descending)、上昇型(ascending)、V字型(V-shape)、平坦型(「どの時間軸においても幸福度が一定」、flat) に分類され、先延ばし癖との間に有意な関係は見られませんでした。

 これらの結果は、「今よりも未来のストレスが増えることはない」という未来に対する楽観的な見方を持つことが深刻な先延ばし癖を減少させる可能性を示唆しています。そして、先延ばしを減らし、将来のために行動できるようになるには、未来に希望を持つことや、希望を持てるようなサポートを受けること が有効である可能性も示唆しています。また、本研究の研究成果はムーンショット目標9で掲げる「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」に寄与するものと考えられます。

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図1:「時系列的ストレス観」の類型と先延ばしとの関係
(A) 時系列的ストレス観の類型。下降型(descending)は「未来にいくにつれてストレスは減る(少なくとも過去よりは増えない)」、上昇型(ascending)は「未来にいくにつれてストレスが増える」、V字型(V-shape)は「今が1番ストレスが低くて、そこから離れるにつれてストレスが増える」、への字型(skewed mountain) は「過去のある1点でストレスが1番高く、そこから未来にいくにつれてストレスは減る」と感じている。(B)横軸はストレスをたずねた際の時間軸(「過去10年」「過去1年」「過去1ヶ月」「過去1日」「今この瞬間」「明日」「この先1ヶ月」「この先1年」「この先10年」。質問例:「過去10年間でどれくらいストレスを感じましたか?」「今この瞬間どれくらい幸せを感じていますか?」「この先1年でどれくらいストレスを感じると思いますか?」)、縦軸はストレスレベルを示す。 (C)深刻な先延ばし癖のある群(濃い青、先延ばしスコア上位25%)、軽度の先延ばし癖のある群(薄い青、先延ばしスコア下位25%)、中程度の先延ばし癖のある群(中間の青,先延ばしスコア中位50%)の比率。下降型(descending)は、濃い青(深刻な先延ばし癖のある人=先延ばしスコア上位25%)の割合が有意に低い。(*p < .05、 **p < .01、 ***p < .001)

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科
開  一夫 教授
柏倉 沙耶 博士課程


論文情報

雑誌名:Scientific Reports
題名:Future optimism group based on the chronological stress view is less likely to be severe procrastinators
著者名:Saya Kashiwakura*、 Kazuo Hiraki
DOI:10.1038/s41598-024-61277-y
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-024-61277-y
※日本時間5月30日18時に公開


研究助成

本研究は、JST【CREST】グラント番号【JPMJCR18A4】とJST【ムーンショット型研究開発事業】グラント番号【JPMJMS2293-04】の支援を受けたものです。


用語説明

(注1)深刻な先延ばし
先延ばし研究における「先延ばし」とは、課題を先送りすることによって不適応な結果を招くとわかっていても先延ばしにしてしまうこと。本研究では「日本語版Pure Procrastination Scale」を使用して先延ばしの程度を測定し、上位25%の人たちを「深刻な先延ばし癖があるグループ」と定義した。

(注2)「時系列的ストレス観」・「時系列的幸福観」
過去・現在・未来にわたる様々な時間軸(「過去10年」「過去1年」「過去1ヶ月」「過去1日」「今この瞬間」「明日」「この先1ヶ月」「この先1年」「この先10年」)におけるストレスレベルと主観的幸福度を9件法で測定。(質問例:「過去10年間でどれくらいストレスを感じましたか?」「今この瞬間どれくらい幸せを感じていますか?」「この先1年でどれくらいストレスを感じると思いますか?」) この値を時系列順に並べたものを「時系列的ストレス観」「時系列的幸福観」として定義。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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