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2025.02.04
【研究成果】宇宙・地上望遠鏡が明らかにした原始惑星系円盤の横顔 ──惑星の種の空間分布の進化──
2025年2月4日
東京大学
発表のポイント
- ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡・アルマ望遠鏡・ハッブル宇宙望遠鏡の観測データを組み合わせ、おうし座にある若い星に付随する原始惑星系円盤の多波長・高解像度観測に成功しました。
- 惑星形成の初期過程、すなわちマイクロメートル程度の大きさの固体微粒子がミリメートルサイズ程度までに成長する過程で、その円盤内での空間分布が大きく変化していく様子が明らかになりました。
- この成果は、太陽系小天体の祖先である微惑星がいつ・どこで・どのように形成されたのかを理解する上で重要な手掛かりとなることが期待されます。

(クレジット:ESA/Webb, NASA & CSA, Tazaki et al.)
概要
東京大学大学院総合文化研究科の田崎亮助教らによる国際研究グループは、おうし座に存在する若い星(HH 30星)を取り囲む原始惑星系円盤(注1)の姿を、多波長・高解像度観測を通して明らかにしました。惑星の形成は、マイクロメートルサイズの固体微粒子が付着・成長することで始まると考えられており、本研究では微粒子の円盤内での空間分布が微粒子のサイズ成長とともにどのように変化するのかを観測的に調査しました。特に、近年打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いることで従来の望遠鏡では困難であった赤外線波長帯(マイクロメートルサイズの微粒子をトレース)での円盤の高解像度観測を実現し、またアルマ望遠鏡によるミリ波帯(ミリメートルサイズの微粒子をトレース)での高解像度観測データを組み合わせることで、微粒子のサイズごとの空間分布が明らかになりました(図1)。この研究成果は、微惑星(注2)がいつ・どこで・どのように形成されるのかという長年の謎を解明する上で大きな手掛かりとなることが期待されます。

発表内容
今日までに5000個を超える系外惑星が発見され、惑星は宇宙においてありふれた天体となっています。しかし、惑星の形成過程は依然として未解決の問題です。惑星形成の第一歩は、原始惑星系円盤内でマイクロメートルサイズ(千分の1ミリ)の固体微粒子から微惑星を形成することだと考えられています。この固体微粒子は円盤内で互いに衝突や付着を繰り返すことで成長します。この成長過程において、微粒子は円盤内の同じ場所にとどまるわけではなく、原始惑星系円盤内を大規模に移動します。理論的には、より大きな微粒子ほど円盤の中心面に沈澱(注3)し、また中心星に向かって落下する傾向が予測されています。この微粒子の運動を理解することは、微惑星がいつ・どこで・どのように形成されるのかを解明する鍵となります。
本研究では、原始惑星系円盤における微粒子の運動を観測的に明らかにするため、エッジオン原始惑星系円盤を持つ天体HH 30星に注目しました。エッジオン円盤は観測者に対してほぼ真横を向いている原始惑星系円盤のことを指し、円盤の厚み方向や半径方向の大きさを測定するのに適しています。より大きな微粒子の空間分布を調べるためにはより長い波長の光の観測が重要となります。長い観測波長において高解像度観測を実現するには、口径の大きな望遠鏡を利用することが必要です。これまで、HH 30星ではマイクロメートルサイズ以下の微粒子の空間分布がハッブル宇宙望遠鏡による可視光・近赤外線観測から詳しく調べられていました。しかし、それより大きな微粒子の空間分布については、十分な空間解像度を持ったより長い波長での観測が行われておらず、詳細が分かっていませんでした。 本研究では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(近・中間赤外線)とアルマ望遠鏡(ミリ波)による高解像度観測を実施することで、この課題を克服しました(図2)。

今回得られた観測結果と数値シミュレーションの結果を比較することで、数マイクロメートルサイズ以上に成長した微粒子がまだ沈澱を起こしていないこと(図3)、そしてミリメートルサイズの微粒子は沈澱を起こし、また半径方向の空間分布が収縮していることが明らかになりました。さらに、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測データにおいて、高速ガス流やそれに付随する構造、円盤上面のスパイラル状構造など、多様な構造も鮮明に捉えられました(図1)。

本研究グループはHH 30星だけでなく、他の3つのエッジオン原始惑星系円盤でも同様のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた観測を行ってきており、数マイクロメートルサイズの微粒子が沈澱している天体とそうでない天体が存在することが徐々に明らかになってきました(参考論文1−3)。今後、こうした天体ごとの違いの起源や、固体微粒子の性質や沈殿過程の理論モデルを詳細に精査することで、微惑星がいつ・どこで・どのように形成されたのかという問いへの解明が進むことが期待されます。
【参考論文】- Duchêne et al. (2024), The Astronomical Journal 167, 77
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-3881/acf9a7 - Villenave et al. (2024), The Astrophysical Journal 961, 95
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad0c4b - Villenave et al. (2024), The Astrophysical Journal 975, 235
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad7de0
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻
田崎 亮 助教
論文情報
雑誌名:The Astrophysical Journal
題名:JWST Imaging of Edge-on Protoplanetary Disks. IV. Mid-infrared Dust Scattering in the HH 30 Disk
著者名:*R. Tazaki et al.(*:責任著者)
DOI:10.3847/1538-4357/ad9c6f
URL:https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ad9c6f
研究助成
本研究は、the European Research Council(ERC)under the European Union's Horizon Europe research and innovation program(課題番号:101053020, project Dust2Planets, PI F. Ménard)の支援により実施されました。
用語説明
(注1)原始惑星系円盤
若い星の周りに形成されるガスや固体微粒子からなる円盤状の天体。円盤内で固体微粒子やガスが集積することで、固体惑星やガス惑星が誕生する。
(注2)微惑星
太陽系小天体(小惑星や彗星)の祖先と考えられる半径数キロメートルから数百キロメートル程度の固体小天体。惑星の形成過程は、マイクロメートルサイズの固体微粒子から微惑星を形成することから始まると考えられている。
(注3)微粒子の沈澱
中心星の重力によって、原始惑星系円盤中の固体微粒子が円盤中心面に落下していく現象。より大きな微粒子ほど沈澱が起こりやすく、沈澱を起こした微粒子の空間分布は幾何学的に薄い円盤状になる。しかし、沈澱の効率に関しては様々な議論があり、未だよくわかっていない。