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2025.05.13
【研究成果】対称性が量子ランダム性の生成に与える影響を解明 ──量子ランダム性に階層構造が現れることを発見──
2025年5月13日
東京大学
発表のポイント
- 量子ランダム性の最もシンプルな生成方法における対称性の影響を明らかにした。
- 先行研究で知られていた対称性を考慮しない場合とは異なり、この方法によって生成できる量子ランダム性に階層構造があることを初めて示した。
- 物質の対称性を活用した高効率な量子情報技術や、対称性を持つ物質の普遍的な性質を調べる基礎物理研究への貢献が期待される。
概要
東京大学大学院総合文化研究科の三橋洋亮研究員（研究当時、現・理化学研究所特別研究員）、ベルリン自由大学の鈴木遼太郎大学院生、ハーバード大学の副島智大研究員と、東京大学大学院工学系研究科の吉岡信行助教（研究当時、現・素粒子物理国際研究センター准教授）らによる研究グループは、対称性（注1）の条件の下で、小規模な量子ランダム性（注2）を組み合わせることにより、大規模な量子ランダム性をどの程度生成できるかを初めて明らかにしました。以前から知られていた、対称性を考慮しない場合とは異なり、完全な量子ランダム性の生成は不可能である一方、全体の規模が大きくなるにつれて、次第に完全な量子ランダム性に近づくという、階層構造が現れることが本研究において示されました。この研究成果は今後、物質に固有の対称性を活用した高効率な量子情報技術や、対称性を持つ物質が持つ普遍的な性質を調べる、基礎物理研究の理論的基盤として役立つことが期待されます。
発表内容
【研究背景】
量子ランダム性は、量子情報技術や基礎物理研究において広く活用されています。このような研究で特に重要な課題とされているのが、電子などの量子的な粒子が多数ある時に、どのようにして全体における量子ランダム性を生成するかという問題です。一方で、物理法則には制約があり、物質を構成する粒子間の相互作用は、基本的に少数の粒子間でのみ働く（局所性）という特徴があります。そのため、最も単純で現実的な量子ランダム性の生成方法として、ランダムに少数の粒子を選び、それらにランダムな量子操作を繰り返すという方法が挙げられます。この方法によって全体における量子ランダム性を完全に生成できることは、先行研究で知られていました。
さらに、物理法則には対称性という別の重要な制約も現れます。ある物質が特定の対称性を持つ場合、その対称性を満たす量子ランダム性を用いることで、より効率の良い量子情報処理手法の開発や、物理現象のより詳細な理解に繋がると考えられます。そこで、対称性を満たす量子ランダム性は、ランダムに選んだ少数の粒子に対して対称でランダムな量子操作を繰り返すことで生成できるだろうか、という疑問が自然に思い浮かびます。しかし、この問題に対する答えはまだ分かっていませんでした。
【研究内容】
本研究では、少数粒子への対称な量子操作の繰り返しによって生成される対称な量子ランダム性を、定量的に評価する公式を証明しました。また、物理においてよく現れる対称性にこの公式を適用することで、どの程度の量子ランダム性が生成されるかを具体的に示しました。その結果、粒子の数が増えるにつれて、最終的に生成される量子ランダム性のレベルが次第に上がるという階層構造が現れることが分かりました。本研究成果は、対称性を考慮しない場合とは異なり、少数の粒子に対する操作だけでは、粒子全体における量子ランダム性を完全には生成できないことを示しています。一方で、全体の粒子の数が十分に多ければ、いくらでも高いレベルの量子ランダム性を生成できることも明らかになりました。
【研究の意義、今後の展望】
この研究成果は、量子情報技術と基礎物理研究の両面において意義を持ちます。量子情報技術の観点では、対称性の制約があっても、粒子数が十分あれば量子情報処理に必要な量子ランダム性を生成できることから、既存の量子情報処理手法を対称性のある場合に拡張するための理論的基盤となります。基礎物理研究の観点では、粒子数に応じて生成される量子ランダム性に限界があることから、対称性を持つ物質が普遍的に持つ性質を探る上で興味深い知見となると考えられます。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院総合文化研究科
三橋 洋亮 研究当時：東京大学特別研究員（日本学術振興会特別研究員PD）
現：理化学研究所 量子コンピュータ研究センター 特別研究員
素粒子物理国際研究センター
吉岡 信行 准教授 研究当時：大学院工学系研究科 助教
Dahlem Center for Complex Quantum Systems
鈴木 遼太郎 大学院生
Department of Physics
副島 智大 研究員
論文情報
雑誌名：Physical Review Letters
題名：Unitary Designs of Symmetric Local Random Circuits
著者名：Yosuke Mitsuhashi*, Ryotaro Suzuki*, Tomohiro Soejima*, and Nobuyuki Yoshioka*
DOI：10.1103/PhysRevLett.134.180404
URL：https://link.aps.org/doi/10.1103/PhysRevLett.134.180404
研究助成
本研究は、日本学術振興会特別研究員奨励費（課題番号：JP23KJ0421）、BMBF PhoQuant（課題番号：13N16103）、Gordon and Betty Moore Foundation's EPiQS Initiative（課題番号：GBMF8683）、IBM Quantumの支援により実施されました。
用語説明
（注1）対称性
ある操作群に関する不変性のこと。物体や物理法則がある操作に関する対称性を持つとは、その操作をしても物体や物理法則が変わらないことを表す。例えば、円は中心の周りに回転させても形が変わらないことを指して「円は回転対称性を持つ」という。
電子などの量子的な粒子に対して行われる量子操作を偏りなく選び出す性質のこと。多数の粒子において量子ランダム性を生成することは、ランダムな文字列の生成などの古典的な場合と比べて圧倒的に困難であることが知られている。
