先進科学研究機構
先進科学研究機構は、先進的な研究領域の新進気鋭の研究者を駒場に結集して先進的研究を加速するとともに、大学院や後期課程の研究・教育だけでなく、前期課程の自然科学教育の充実もはかることを目的とする機構である。
この新しい機構では、教員人事の仕方から刷新した。通常はシニアな研究者が分野を決めて公募することが多いが、「XX学のYY分野を専門とし、若手で、日本語が流暢で、...」といくつもの条件を付けることになるため、目星を付けていた研究者がちょうど他大学からのオファーを受諾したばかりだったりと、「良縁」に恵まれずに人事が難航することも少なくない。しかもシニアな研究者が目星を付けた分野が本当に将来性があるのかどうかも、極めて疑わしい。
そこで、「分野よりも人」「能力があって研究意欲が高い人がポストとスペースを得れば、勝手に面白い研究を始めるものだ」という信念を、先進科学研究機構の人事に取り入れた。すなわち、分野を決めずに自然科学全体を見渡して最も有望な若手を探す。そうすれば、適任者がたまたま居ないなどという確率はゼロになり、輝いている若手が必ず見つかる。東京大学は大きな組織であるから、ひとつぐらいそういう人事をする組織があってもいいだろう、と考えた。
こうして新規採用した若手研究者達を、大学院や後期課程の学生だけではなく、前期課程の学生達とも密に相互作用させる。とくに、授業評価アンケートで大多数の学生が「難しかった」と答えた科目を「物足りなかった」「もっと高度な内容も教えて欲しい」と答えるような学生と、相互作用させる。
そのために、従来よりも高度な内容を少人数講義で教える「アドバンスト理科」を前期課程の学生向けに開講することにした。高度な内容をオムニバス的に紹介するような、ありがちな講義ではなく、システマティックな内容をきちんと積み上げていく講義である。学生は世界をリードする若手研究者から大きな刺激を受け、多くの事を吸収するであろう。同時に、若手教員も、1年生の根源的な疑問に真摯に答えようともがく中で、新しい研究の扉が開くことも希ではないはずだ。先進科学研究機構は、先進的研究を加速するだけでなく、そういう相互作用も引き起こすための組織である。