教養学部報
第529号
〈本郷各学部案内〉 食料・環境・エネルギー問題に取り組む農学部
小川和夫
農学部を紹介する前に、進学振り分けについて、ぜひ言っておきたいことがあります。このことはどの学部へ進学する場合でも言えることです。それは、進学 先を決める際には、点数の高低ではなく、自分が本当にやりたいことは何か、やりたいことが実現できるかどうか、に選択の基準を置いて欲しいということで す。点数の高いところへ進学すれば、自分のプライドや見栄は満たされるかもしれません。しかし一方で、点数優先で進学先を決めて、進学後に研究教育内容が 自分に合わない例が見受けられます。それが原因でやる気を失って、ドロップアウトする人もいます。これは本人だけでなく、教員にとっても大変不幸なことで す。さて、そのうえで、後期課程でどんな勉強をしてみたいですか?
どんなことに関心を持っていますかと問われて、食料や環境やエネルギー問題を挙げる人は多いと思います。農学部はこの命題に正面から取り組んでいます。 地球の人口を養うだけの食料の確保、それも安全で健康を増進する食品を、環境と調和をはかりながら長期安定的に供給し続けるにはどうしたらよいのでしょ う。熱帯雨林を切り開いて牧草地にしたり、マングローブ林を伐採してエビの養殖場にした例では、生態系への悪影響がはっきり見えることがあります。
では、人間の食料生産活動に伴う環境変化はどこまでが許容範囲なのでしょうか? 実は、その問いに対する明確な答えはありません。食料問題にしても、環 境問題にしても単純な図式では説明できるものではないからです。それでも私たち人類は、できる限り生態系が提供する機能の保全を図りながら食料増産を目指 さなければなりません。
一方で、農学部を農林水産業のためだけの学部と考えるのは、一面的な見方です。微生物や動植物を材料にして分子レベルで生命体の機能の解明に取り組むバ イオサイエンス研究もあれば、生物資源からバイオエネルギーを創出したり、医薬品やナノ素材を開発する研究も行われています。地球規模の課題に取り組むわ けですから、研究教育の舞台は国内にとどまらず、ボルネオの熱帯林、モンゴルの砂漠地帯、ベトナムの湖沼域など、地球上のさまざまな生態系にも及んでいま す。理系の研究室がほとんどですが、農学を社会科学的に分析する文系の研究室もあります。このように、農学部は食料や環境問題にとどまらず、生命現象の基 礎研究から化石燃料の代替エネルギー開発までも手掛け、理系から文系まで幅広い学問領域をカバーしています。
農学部の活動で特徴的なことは、フィールドワークを積極的に教育研究に取り入れていることです。農作業や漁労経験のある人は、皆さんのなかにあまりいな いのではないでしょうか。すばらしい講義を受けても、内容が単なるイメージや知識にとどまっていては、教育効果を挙げたことになりません。作物の収穫、牛 の健康管理、森林の調査、プランクトンの採集など、身をもって経験する実習は、学生に強いインパクトを与えます。これがきっかけで海外でのフィールド調査 を研究テーマに選ぶ学生もいますし、実験室内の研究にもフィードバックされていきます。
農学部は居心地がよい、アットホームな雰囲気があるとよく言われます。教員には「変人は多いが、悪い人はいない」とも。これは、農学部が多様な集団であ ることと無関係ではないと思います。ぜひ農学部のガイダンスに来て、農学部のホームページにアクセスして、そのことを実感してみてください。
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