教養学部報
第555号
コマメシ──駒場の飲食店案内――
齋藤希史
担当変わって2回目のコマメシ。タイトルをコマメシ2.0に変えようかと一瞬思ったけれどもそもそも2.0が何だかわかってないのでやめました(ちなみにバンクーバーで売っているSpice 2.0という調味料はおすすめ)。要するに昨年の改訂版、初登場は5軒、本文中に紹介したお店のみ地図に載せる方針に変更。
駒場で働く人(学ぶのも働くうち)のごはん、コマメシについて語るとなれば、まずは生協食堂(1階カフェテリア若葉・2階ダイニング銀杏)①から。かつての食堂を知る身にとって、いまの食堂はまさに異次元。明るく開放的、外の芝生で草上の昼食を楽しむ学生までいる(幼な子も走り回っている)。昼休みの若々しい(苦々しい?)混雑を避け、空いた時間を見計らって2階のテラスでひとりぽつんとかき揚げ蕎麦など啜るのも教員ならではの愉悦のひととき。読書とコーヒーなら隣のイタリアントマトカフェJr.②。パスタやホットドックなどの軽食もあるし、ケーキをごちそうすることもできる(誰に?自分に?)。大きな窓から見える矢内原公園の緑も美しい。
とはいえこれらはやはり学食、ゲストをお連れしてとなれば、駒場に籍を置く身として少しは見栄を張りたいのが人情。そこでルヴェソンヴェール&橄欖③。ダンスホールにも使われていた旧一高同窓会館洋館を改築した建物は雰囲気もよく、一階のルヴェソンヴェールは、昼食時は早めに行かないと席がないほどの盛況ぶり、奥さま方のお喋りに圧倒されながらも、鱸のポワレやら仔羊のローストやらを八〇〇円で楽しめるのはたしかに貴重。2階はサービスも料理も正統的、ここいちばんのために憶えておくとよいかも。なお、駒場第2キャンパス(駒Ⅱ)にあるカポ・ペリカーノ④に散歩がてら出向くのも一興。
充実した定食こそ午後の活力という向きには、キャンパス東側の梅林門から踏切を渡って駒場東大前商店街を右に進めば菱田屋⑤がある。昼どきは混んでいて入れないことも多いが、キッチン南海⑥でカツカレー、リスブラン⑦でパスタランチなど、好みに応じてバックアップもある。さらに東に向きを変え、郵便局を左手に過ぎて行けばいんど・ネパール料理ムスカン⑧。カレーはやっぱりナンでなければという人に。ライスもあり。郵便局の通りから一本隔てた南にひっそりたたずむ中華井上⑨は、昭和の味わいが懐かしい。
通称駒下のこの界隈は、昼も夜も駒場を支えていて、英香⑩やさわやか⑪はゼミ後の親睦などに定番(英香は昼定食も)、All-resse Bien Cuite⑫でちょっとした焼菓子を買って午後の差し入れ(実質本位ならみしま⑬ のたこ焼か)になど、間に合わないあれこれを速達で出そうと郵便局に行くだけではもったいない。そうそう、郵便局向いの角屋⑭自家製カレーパンも忘れてはいけない。
駒下から駅の西口へと戻っていけば、カレーのLucy⑮あり、つけ麺の駒鉄⑯あり、老若男女集うマクドナルド⑰あり。坂下門横の満留賀⑱は、盛りのよさでは誰もが知るところ、一度は大盛りを頼むべしとの声も(一度が限度らしい)。看板にはPARTⅡとあるけれども出前は真っ赤なポルシェでなくホンダカブ。ちなみに店名は本来「まるか」、由来をたどれば明治33年に加藤豊蔵氏が芝で創業したカ三河屋(このときはうどん屋)にまで遡る。のれん分けを重ねて、現在、満留賀を名乗る店は二〇〇軒を越すという。
満留賀でも駒場教員に遭遇する確率は高いが、さらに西に坂を登ってDora⑲に入っても事態は変わらない。人形に囲まれてポークジンジャーを黙々と食べているのはさっきまで教壇にいたあの人。ripple⑳は海南鶏飯がメニューにあるのが嬉しい。カフェコロラド21はドトールチェーンの喫茶店。さらに駒場小学校横のLe Ressort22に立ち寄れば、カロリー度外視美味追求のタルティーヌがあなたを誘惑する。うなぎの宮川23は出前でもお世話になる。
駒場キャンパスは北側が穴場。野球場土手の桜の見事さは言うに及ばす、散策ついでに野球場門(北門)を出て駒裏に出れば、そこはコマメシのフロンティア。フレッシュネス・バーガー24は同チェーンの一号店、駒下のマクドナルドとは対照的、ファストでないハンバーガーを味わいたい向きに好評。少し東海大学の方に入ったところのビストロ、シャンブル・アヴェク・ヴュ25は、ルヴェソンヴェールより心もち高め、そのぶん落ち着いた雰囲気で食事を楽しめる。さらにまっすぐ進むと右手に大茂里26、中華と洋食を昭和の味と雰囲気で(昭和度は井上より上か)。何軒か先には巴屋27、地元に愛されるおそば屋さん。
駒場側に少し戻って角を東に曲がれば、粋(SUI)28でハヤシライスやキーマカレー、さらに郵便局を過ぎて(ついでにレターパックも買って)、むぎ29で魚定食という手もある。どちらも夜の店が昼にもきちんと仕事をしているという風で、お値打ち感が高い。ここまで来ればキャンパスの裏門(体育館横)も近く、昼夜ともに使い勝手のよい蕎麦の絆30、駒場生定番のラーメン山手31も指呼の間。裏門横には絵本カフェ三叉路32。
こうしてひとめぐりするだけでも、駒場の食は意外に豊か。書き漏らしたお店も多く、探索の楽しみはまだ尽きない。バックナンバーもぜひ参考にしていただきたい。よきコマメシを。
(超域文化科学専攻/国文・漢文学)
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