HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報621号(2020年10月 1日)

教養学部報

第621号 外部公開

<時に沿って> 帰国と次のステップ

三木優彰

こんにちは。学際科学科図形科学部会に助教として着任しました三木優彰と申します。研究分野は建築の構造デザイン、特に形状決定と呼ばれる分野です。通常の構造設計は与えられた形状をもとに解析を行いますが、形状決定では持っている力学の知識を総動員して合理的な形状を計算で求めます。他に、研究ではありませんが、パラメトリックモデリングといって、設計している建築物の三次元モデルを変更可能なパラメータの集合から自動的に生成する手法について専門知識があります。
私の簡単な経歴は、二〇一二年に東大の建築学専攻で博士号取得、その後情報理工の五十嵐健夫先生の率いる研究グループ、五十嵐デザインインターフェースプロジェクトに席を置かせてもらいコンピュータグラフィックスの最高峰の学会SIGGRAPHから論文出版を行いました。不思議なもので建築の構造デザインの論文が立て続けにSIGGRAPHから出版されていたのです。その論文がきっかけとなり米国ChicagoのSkidmore Owings and Merrillという組織設計事務所でアーキテクトとして働く機会を得、結局四年半米国に滞在し今年の三月末に帰国いたしました。アーキテクトとして実施プロジェクトに携わり主にパラメトリックモデリングを担当する傍ら、Engineer­ing PartnerのBill Baker(Burj Khalifaの構造設計を率いた人です!)率いるResearch Gangのミーティングに参加する刺激的な毎日でした。
博士号取得後は驚きの連続でした。五十嵐デザインインターフェースプロジェクトではメンバーの半数が外国人、ミーティングは英語、そしてコンピュータサイエンスでは卒論から英語です。対して建築では博論も日本語、海外のジャーナルからの論文の出版も義務付けられてはいません。なによりも活気がありました。博士課程在籍中、海外のジャーナルから論文を出版しようと奮闘していましたが叶わず、取得後もなんとか出版したいと考えていたので、この環境で二年ほど頑張ってみようと思ったのです。結果はInternational Jour­nal for Numerical Methods in Engineer­ingとSIGGRAPHから一本ずつ。環境の与える影響のなんと大きいことか。ゆっくりとですが海外との接点もでき始めイギリスのBath大学(よいところです!)に二ヶ月、スイスのETH Zurichに一ヶ月滞在する機会をもらいました。そこで応力関数を新しい研究テーマとして勧められました。私のやっていた分野はもうやり尽くされていて、なにか新しいものを見つけても誰かがすでにやっているか、仮に新しいことだとしてもそれが本当に新しいと証明するのに多大な労力が必要だろう。この分野で真に新しいことができるとすれば、それはもう応力関数に関するものだけだ、というのです。SIGGRAPHに提出した論文はこの応力関数に関するもので、離散版と連続版を両方用いるという示唆に富んだものでした。
建築ではアーキテクトがデザインを行い、エンジニアがmake it workするという分業と協業が定着しています。形状決定で面白い形状が見つかってもそれが実際の建築プロジェクトで使われなければ、その評価は未定です。そしてアーキテクトにはアーキテクトが大事にしているプロセスとロジックがあります。そのプロセスやロジックと私の研究の整合性をとる、それが私の次のステップになります。

(広域システム科学/情報・図形)

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