HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報624号(2021年1月 5日)

教養学部報

第624号 外部公開

<送る言葉> 今に生きる当時の研究指導

米田 剛

 儀我先生、この度はご退職おめでとうございます。月日は無常にも流れていくもので、いつかはこの日が来ることが頭で分かってはいたものの、実際に直面すると、やはり寂しい気持ちになってしまうのが正直なところです。儀我先生は流体運動や結晶成長といった自然現象を記述する偏微分方程式の研究分野で顕著な業績を挙げてこられ、二〇〇四年に井上学術賞、二〇一〇年に紫綬褒章を受章されるなど、文字通り世界をけん引する数学者です。よって、先生の業績を真剣に語りだすと紙面があっという間に尽くされてしまいます。ここはせっかくの機会ですので、指導教官としての儀我先生と私の(知られざる?)エピソードから、先生の素晴らしいお人柄をご紹介したいと思います。私が儀我先生と初めて出会ったのが、十数年前、私が大阪教育大学の修士学生だった頃で、儀我先生も北大から東大に異動されて間もない頃だったと思います。その頃の私はかなり特異な経歴を歩んでおりましたが、幸運にも初めての数学結果を創出できた頃でもあります。そのような中、或る研究集会で東大数理に赴く機会があって、その時に「先生、私の数学結果を聞いてください!」と儀我先生に話しかけたことが出会いのきっかけです。今思えばかなり強引だった気がしますが、当時無名だった私に対しても「いいですよ、では○○日○○時に私の研究室に来てください」と温かく迎えて下さったことを今でも覚えております(実のところ、何人かの先生にも同じようにお願いしたのですが、全て断られていました)。そして、その日時に先生の研究室に赴きましたが、私のつたない説明をかなり真剣に聞いて下さったことを今でも覚えております。そのことを契機に「是非とも懐の深い儀我先生のもとで研究をしたい!」という熱い想いを抱き、そして東大数理の博士課程に入学させて頂く運びとなりました。指導教官としての儀我先生から学ばせて頂いたことは数多くありますが、「海外に積極的に出向いて、色々な研究者と沢山議論をしなさい!」というアドバイスは特に強調されていました。「紙と鉛筆さえあれば数学は(部屋に閉じこもって?)研究が出来る」と巷ではまことしやかに語られていますが、やはり「良いアイデアを得るには、違うバックグラウンドをもつ様々な研究者との議論が最も大切だ!」ということを伝えたかったのだと思います。今思い返すと、私自身の大きな研究結果につながるときは、いつもそういった議論(特に海外研究者に対して)がきっかけであったことがほとんどです。孫弟子にもこのアドバイスをしっかりと継承させていきたいと思っております。今現在でも研究を精力的に進めておられる先生のお姿は我々の大いなる励みとなっております。健康にはくれぐれもお気をつけつつも、ご精進をお祈りいたします。改めまして、この度はご退職おめでとうございます。

(数理科学研究科)

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