HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報624号(2021年1月 5日)

教養学部報

第624号 外部公開

<送る言葉> 緻密さと優しさと ―杉田英明先生を送る

筒井賢治

 杉田英明先生は東京のご出身で、東京大学教養学部、同大学院人文科学研究科修士課程・博士課程と進学されました。この間、博士在籍中にカイロ大学へ留学、一九八四年の帰国後ただちに東京大学教養学部の助手に採用されました。その後専任講師、助教授を経て現在に至ります。教員としてだけでも三十六年間を駒場で過ごされてきたことになります!遡って、助手時代の最後に総合文化研究科から博士号を取得されています。
 数多くの学内職務経験のうち、私の知る限り、特筆すべきは東京大学中東地域研究センターの運営に尽力されたことでしょう。二〇一四年に本郷の伊藤国際学術センターで大規模な国際シンポジウムが開催された際には(総長の他に外国のVIP、さらには皇太子殿下もご臨席)、その準備に追われて大変なご苦労だったと伺っています。
 ご研究の専門分野は比較文学比較文化ですが、ベースがアラビア語圏の文化や文学なのは当然としても、比較される対象が古今東西にわたり膨大で、先生の場合には「博識」といったありふれた言葉が通用しないように感じられます。著書や論文の数も多く、受賞歴をここで列挙することもできません。最近の一例だけですが、大著『アラビアン・ナイトと日本人』によって、二〇一五年、「シェイク・ザイード・ブック・アワード」を日本人として初めて受賞されました。これがどのような賞なのか、興味のある方はぜひお調べください。
 さて、私は杉田先生と部会を同じくするという立場でこの文章を書いているのですが、実は所属教員が二人だけで、先生はアラビア語、私は古典語の担当という分業体制をとっているため、部会を通じての交流はほぼありません。が、何年か前に前期課程の大規模なカリキュラム改革が行われた際、部会全体で使える非常勤講師のコマが年度で二つ増えるということがありました。主任だった私は先生と相談し、これを通年の「アラビア語初級」を増やすために使うことにしました。事務作業は私、講師の手配は先生が担当し、協力の結果、この授業が今では同時に二つ走っています。私としても、駒場に貢献ができたと思う数少ない一件です。
 「緻密さと優しさと」を表題にしましたが、先生を知っている人は必ず同意なさると思うので、私が論証する必要もないでしょう。再び一例だけ。駒場では各課程で様々な論文審査が行われます。先生が出席されると、必ず数ページにわたる詳細なメモを持参され、質疑応答の後、学生にそれを手渡すのが常です。なかなか真似のできない緻密な作業である一方、学生にとってこれほどありがたいことはないだろうと思います。
 杉田先生と私は18号館の五階という同じフロアに研究室を持っているのですが、若輩の私が必ずエレベーターを使うのに対し、先生は階段をいつも利用されます。これからも同じく健康維持に留意され、さらなるご活動を進めていただきたいと願い、送る言葉とさせていただきます。

(地域文化研究/古典語・地中海諸言語)

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