HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報624号(2021年1月 5日)

教養学部報

第624号 外部公開

まだ見ぬ変な惑星を求めて

成田憲保

 太陽系には八つの惑星があり、私たちはその内側から三番目にある地球という惑星に暮らしている。この太陽系には、内側から水星・金星・地球・火星という比較的小さな岩石惑星があり、その外側には木星・土星・天王星・海王星という巨大惑星がある。
 太陽以外の恒星を公転する惑星である「太陽系外惑星」が発見されるまで、私たちが知る惑星はこの太陽系の惑星だけだった。そのため、天文学者や惑星科学者は長らくこのような姿をした太陽系が宇宙の標準的な存在と考え、太陽系にあるような惑星が「普通」の存在であると考えていた。
 しかし、一九九五年に初めて発見された太陽系外惑星「ペガスス座51番星b」は、太陽のような恒星のすぐそばをたった四日あまりで公転する巨大惑星だった。灼熱の木星のような惑星ということで「ホットジュピター」とニックネームがつけられたその惑星は、それまでの常識を覆すまさに「変な」惑星だった。
 このように今までの常識を覆したり、従来の理論では説明できないような存在は、今まで考えられてきた標準理論にまだ見落としがあることを気づかせてくれる。この見落としを克服していくことがより真理に近づく道であり、研究に新しいブレークスルーをもたらすきっかけとなる。そのため、今までにない変な惑星を見つけるということは、ワクワクするような科学的に面白いことだと言えるだろう。
 最初の太陽系外惑星の発見から二十五年が経ち、今では四千個を超える太陽系外惑星が発見されている。これまでの研究でわかってきたことは、宇宙には太陽系とは全く異なる姿をした多様な惑星系があふれていて、宇宙の中で見ると太陽系は全く標準の惑星系ではないということである。その結果、最初は変だと思っていた惑星、例えばホットジュピターも、今ではごくありふれた惑星となってしまった。
 ではもう太陽系外惑星の分野でワクワクするような新しい変な惑星の発見はないのだろうか? そんなことはない。前置きが長くなったが、ここではNASAが二〇一八年に打ち上げたトランジット惑星探索衛星TESS(Tran­siting Exoplanet Survey Satellite)と、最近の変な惑星の発見について紹介しよう。
 TESSは超広視野カメラを四台搭載した衛星で、一度に空の24度×96度の視野を観測できる。TESSは主星の前を通過するような軌道を持つ太陽系外惑星が引き起こす、主星が周期的に少し暗くなる減光現象(これをトランジットと呼ぶ)を探すことで、トランジットを起こす惑星の候補を発見している。TESSは最初の二年間でほぼ全天の探索を終え、二千個を超えるトランジット惑星候補を発見した。現在は三年目の観測に移行しており、今後少なくとも四年以上にわたって探索が継続される予定となっている。
 ここでTESSが発見したものを「惑星候補」と書いていることには理由がある。これはTESSで発見された周期的な減光を起こす天体が、本物の惑星ではなく食連星(二つの恒星がお互いを公転している「連星」の中で、一方がもう一方の恒星の前を通過するような連星)による偽物の可能性があるためである。そのため、TESSで発見されたトランジット惑星候補が本物の惑星かどうかを確認するための観測が世界中で行われている。
 成田研究室では、TESSで発見された惑星候補が本物の惑星かどうかを判別する観測を行うため、自分たちで新しい観測装置の開発を行い、その装置を使った観測を行なっている。これまでに、日本の岡山、スペインのテネリフェ島、そしてアメリカのマウイ島にある三台の望遠鏡に、MuSCAT、MuSCAT2、MuSCAT3と名付けた三台の観測装置を開発してきた。
 私たちはこのMuSCATシリーズを使って、TESSが発見した惑星候補が本物の惑星かどうかを判別する観測を日々行っている。そんな中、二〇一九年十月にテネリフェ島のMuSCAT2でとても変な惑星の候補を観測した。これは「白色矮星」という天体を周期一日あまりで公転する巨大惑星の候補である。
 駒場で宇宙科学Ⅰを履修した人は覚えているかもしれないが、白色矮星というのは太陽のような恒星が寿命を迎え燃え尽きた後に残る天体である。しかし、恒星が白色矮星になる前には、地球の軌道を飲み込むくらいの大きさの赤色巨星という段階を経る。すると常識的に考えると、白色矮星を周期一日で公転するような惑星は存在するはずがない。
 しかし驚くべきことに、MuSCAT2とその他の地上望遠鏡・宇宙望遠鏡の観測結果は、これが本物の惑星であることを示していた。この変な惑星の発見は、二〇二〇年九月十六日に科学雑誌Natureで発表された。
 白色矮星の周りで公転周期一日あまりのところに惑星が存在しているという観測事実は、様々な理論的研究に火をつけた。実際、この惑星がどうやってできたのかを説明する論文や、もし白色矮星の周りに地球のような惑星があったら生命の兆候を観測で検出できるかといった論文が、発見後数ヶ月のうちに何本も発表されている。このように、宇宙にはまだ見ぬ変な惑星たちがまだあるに違いない。TESSとMuSCATシリーズによる観測はこれからも続き、変な惑星にまた出会うことができるかもしれない。
 そして、四千個以上もの惑星が太陽系外に発見されても、今までにまだ一つしか確認されていないとても変な惑星がある。それは生命を育む惑星、地球である。地球のように生命を育む惑星が、宇宙の中で滅多にない変な惑星なのか、それともありふれた惑星なのかはまだわからない。それを解き明かすため、新しい太陽系外惑星の探索とその惑星がどういう惑星なのかを調べる研究は、今後少なくとも二十年以上にわたって天文学のホットな研究テーマとなるだろう。さらに、生命を育む惑星があるかどうかの研究と並行して、宇宙における生命を考えるアストロバイオロジーという学際的研究も発展していこうとしている。
 最後に宣伝となるが、ここで紹介した太陽系外惑星の研究や、宇宙における生命を考えるアストロバイオロジーの研究に興味のある駒場の学生は、学際科学科広域システムコースへの進学をぜひ検討してもらいたい。

(広域システム科学/先進科学)

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