HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報628号(2021年6月 1日)

教養学部報

第628号 外部公開

<時に沿って> 終わりよければ全てよし

末次憲之

 令和三年四月一日に生命環境科学系・生物部会の准教授に着任しました末次憲之と申します。私の専門分野は植物の光生物学です。主に種子植物のシロイヌナズナとコケ植物のゼニゴケを研究材料として研究を進めています。
 植物は光を利用しながら固着生活を営みますが、光を光合成に必要なエネルギーとしてだけではなく、成長や発生を調節する情報としても利用しています。光の波長、強度、照射時間や方向などの情報を感知する光受容体タンパク質が様々な光応答反応を制御します。私は植物の光受容体のうち特にフォトトロピンと呼ばれる青色光受容体キナーゼを研究対象としています。フォトトロピンは光屈性、葉緑体運動、気孔の開口など光合成に必要な光や二酸化炭素の吸収の最適化を担う光応答反応を制御しますが、私は東京都立大学の学部生の時以来、葉緑体運動の研究に従事してきました。葉緑体は光合成に必要な光を効率的に吸収できるよう弱い光に向かって集まり、強すぎる光からは逃げます。葉緑体運動は、光合成に必要な光の吸収を最適化することによりバイオマスの増産や強光ストレス回避を実現し、常に変動する自然の光環境下における植物の生存に必須な光応答反応の一つです。私の興味は葉緑体運動の分子メカニズムと、フォトトロピンが葉緑体運動や光屈性など細胞・組織・器官の各レベルの反応を使い分けるメカニズムです。特に葉緑体運動における、フォトトロピンが発する〝信号〟の実体を明らかにしたいと思っています。この"信号"が明らかになれば、フォトトロピン信号伝達系の使い分けのメカニズムも解明できる可能性があります。また、ゼニゴケを用いたキナーゼ信号伝達系の研究にも挑戦したいと思っています。
 私は着任するまでほぼ二十年間ポスドクでした。都立大修士二年生の時に基礎生物学研究所に移って以来、九州大学、京都大学、グラスゴー大学、再び京都大学と五研究室を転々と渡り歩きました。行った土地土地はどこもいいところで食事や生活を楽しみましたが、なかなか就職が決まらず将来が何も見えない長い時を過ごしました。それでも「しっかりした論文を書き続けていれば、そのうち人は認めてくれる」という師の和田正三先生の言葉を信じ、多くの先生方のサポートを受けて、やっと定職につくことができました。途中で諦めていたら今までの努力や業績全てが水の泡でしたが、本研究科の准教授に採用され、全てが意味のあることになりました。人生何があるかわからないものということを痛感しました。
 駒場では生物学の面白さとともに、長いポスドク生活で培った正しい研究の仕方や辛いときの心の持ちようなどをお伝えし、学生の皆さんの学生生活と今後の将来に少しでもお役に立てればと思っています。定職につくという私の人生で一回目の大きな山場が〝終わりよければ全てよし〟となりましたので、これからは教育と研究に貢献するという新たな目標に向けて頑張りたいと思います。〝終わりよければ全てよし〟という文句は結果至上主義という意味で捉えられると現代社会ではあまり良いイメージではありませんが、努力をし続け、苦難を乗り越えれば結果が出た時に報われるという意味に捉えていただければ幸いです。

(生命環境科学/生物)

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