HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報643号(2023年2月 1日)

教養学部報

第643号 外部公開

<駒場をあとに> 学びやに感謝をこめて

藤井聖子

image643-02-1.jpg 駒場に一九九九年度に着任して早や二十三年半になります。その間、教育・教育行政・研究の様々な協働・共創において、多くの輝かしい先輩・同僚の先生方・研究者や大学院生・学部生の方々に巡り会え、かけがえのない貴重な学びの二十三年半に恵まれました。先生方にも行政事務の方々にも様々なご教示・ご支援等をいただき、また学生さんお一人お一人からも常に種々学びの機会をいただき、大変お世話になりました。衷心より感謝いたしお礼申し上げます。
 大学院教育においては、着任時に「(専攻の重要な柱の二つ)理論言語学と言語習得論・言語教育学との橋渡しになるように」との任務・期待を専攻より拝命し、人の言語と認知に関する理論的研究と発達論・教育(学)との橋渡しを希求し続けてきました。「理論研究と発達論・教育学をつなぐ」ことは、自分の研究・教育におけるかねてからのライフワークの一つと合致しており、学部で理論言語学と認知科学に目覚め、並行して社会貢献のために教育を使命と定めた二十歳頃より、大学院留学やその前後の国内・米国大学(院)でのファカルティを経験した道のりを貫く目標でした。縁あって、二〇一四年度からは、東京大学と母校でもあるカリフォルニア大学バークレーとの戦略的パートナーシップ大学プロジェクト全学企画のための事務・行政・渉外・企画・実施に従事し、大学院・学部専門教育のためのグローバル化の「研究を教育に繫げる」企画ができたことも歓びです。
 向学心溢れる多くの学生さんたちに出会い、ディスカッションや発問をすれば主体的に取捨選択し、支援や助言や講義をすれば能動的にすくすくと成長を遂げていく優秀な学生さんたちの夢に寄り添って伴奏したり伴走したりできたことは、至福の歓びでした。順応性・適応性は幼少期から人一倍旺盛な特性から、学生さん達一人一人の夢や哀楽や惑いに共感する毎日でした。駒場でのそのような研鑽協働期間を経て、修了後や節目には、『ハリール・ジブラーンの詩』「子どもについて」(神谷美恵子訳)にある「あなたがたは弓のようなもの、その弓からあなたがたの子どもたちは 生きた矢のように射られて、前へ放たれる。射る者は永遠の道の上に的をみさだめて 力いっぱいあなたがたの身をしなわせ その矢が速く遠くとび行くように力をつくす」という詩を想い出しながら、海外の大学院進学なり就職なり各々の人生が望む次のステップへの旅立ちを支え自立していけるよう願い弓になってきました。国内外の職場・大学(院)で活躍されている多数の元指導学生さん達に、常に「藍より青く」とエールを送り続けています(ただし、私自身は米国博士課程の恩師からの学びで「藍より青く」なれていないことも自覚の上で)。
 後期課程専門科目(主に学際言語科学)においても、「言語と人間」「言語と認知」「日本語学」「言語の対照と類型」等を当時学部生として履修してくださった方々が、今や(准)教授として活躍されているのを眩しく見上げ嬉しく見守りつつ、次世代にバトンを繋ぐ意義も感じて参りました。
 前期課程の教育・教育行政においては、着任から二〇一六年度まで十七年半は、英語部会に所属し、英語科目を担当し、加えて交換留学英語プログラム(終盤USTEPと連立)での日本語コースの運営・コーディネーション・教育に注力しました。二〇一〇 年頃からはPEAK開設のためのカリキュラム準備や国際化推進教員人事委員会関連業務も大切でした。一方、四月正規入学留学生のための前期課程日本語教育は、開講以来それまで英語部会が担っており、英語部会においてその運営・統括をしていました。が、前期課程カリキュラム改革を進めた二〇一四年より本格的に、前期課程日本語カリキュラム構成・新科目をデザインし構築しました。
 同じ頃、東京大学のグローバル教育の必要性認識の一環で、研究科長室より「日本語部会」を新設するようご指示があり、二〇一七年度四月より日本語部会を発足させました。二〇一四年に準備をし、二〇一五~一六年度「日本語教育実施部会」を新設し様々な連携・試行・手続き等を経て、日本語部会を設立し、日本語教育(その運営・調整・大学内外連携等)を担うとともに、二〇一七年度よりグロコミ所属の日本語教育教員も部会に迎え、日本語教育に従事する教員の活躍の場・組織の充実に努めて参りました。日本語部会新設の判断自体は、研究科長室によるご英断であり、その研究科長室からの命に従いその任を鋭意全うして参ったに過ぎないものの、それによりそれまで正規入学留学生のための教育・行政等で見過ごされがちだった様々な点にも注力できました。その一部が、前期・後期課程の科目群全体の新カリキュラム構築や、基礎科目一列・二列C・二列P等を連動させる新カリキュラムデザイン・構築と教材開発であり、リベラルアーツを非母語話者向け初年次セミナー趣旨でデザインした[Active Learning in Academic Japanese for Arts and Sciences]および、その教科書『テーマで考え議論する日本語』です。
 新生部会の運営の礎を築き軌道に乗せるためには、十七年半私を育ててくださった英語部会での行政や運営委員等の経験が必要不可欠な底力でした。英語部会での十七年半の学びにも感謝が尽きません。英語部会が育て親の「弓」となり、教え子藤井の一矢を放たれ、飛んだ矢が日本語部会を設立し六年間育てて参ることができました。グローバル化・多様化を進める東京大学、とりわけその主軸を担う駒場の教養学部にとって、望まれていた日本語部会を新設し軌道に乗せることができたことが、在職中に成し遂げたユニークな (行政・教育面での)貢献とみなされるでしょうか。その新家・日本語部会では、その頃新任として着任された宇佐美さんやPEAKポストから参入された方々が(部会設立当初の目標の一つであった「全員にサバティカルを確保・実施」を成し遂げた後)今や主任業務も引き継いでくださり、グローバル化の学びも脈々と継承され展開していくことでしょう。
 駒場でお世話になった皆様はもとより、グローバル化のために協働し或いは飛び立っていかれた世界各国の皆様に感謝を込めて、それぞれのご健勝とご発展を祈念いたしております。
 Fiat lux. 光あれ

(言語情報科学/英語[二〇一六年度まで]・日本語[二〇一七年度以降])

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