HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報643号(2023年2月 1日)

教養学部報

第643号 外部公開

三期目を迎えた習近平政権と政策課題

川島 真

◆「団結」か「豊かさ」か?
 中国共産党の第二十回党大会で習近平総書記が三期目へとその任期を延長した。後継指名がされていないことから、四期目への延長をも視野に入っていると考えられる。党大会での演説は、二〇一七年の第十九回党大会を踏まえたものであった。二〇一七年、習近平は二〇四九年に社会主義現代化強国となって中華民族の偉大なる復興を実現し、その時がアメリカに追いつき、また台湾統一をも成し遂げる時だとしていた。そして、二〇三五年が中間地点で、その時までに社会主義現代化を成し遂げ、一人当たりGDP二万ドル程度の「中級レベルの先進国」になるとしていたのであった。第二十回党大会で習近平は、この長期的なタイムテーブルに即して、この五年間の成果を語り、今後の五年間、十年間の政策課題を述べたのだった。だが、コロナ禍などに襲われたこの五年間は「異常な五年間」だとされ、目標達成のための「団結」の必要性が強く主張されていた。その「団結」の態様は習近平派で固められた中央政治局常務委員、政治局員の人事にも表れていた
また、その「団結」は強制的でもあり、また自発的でもある。中国共産党は「国家の安全」ネットワークを巡らし、基層社会の管理統制を強化し、また青少年を中国共産党の理論で武装するという。しかし同時に、共産党員も一般の国民、各民族も、そして台湾人や華僑を含む中華民族も、皆が自発的に「中華民族の偉大なる復興の夢」の実現のために邁進することを求める。中国で生じている変化は、このような管理強化や(求められた)自発性に対して「不作為」という抵抗が一定程度できた段階から、「賛同」を強制的に表現しなければならない段階への移行であろう。
 しかしながら、中国の人々が現在求めているのは、ゼロコロナ政策の緩和であり、また失業率の改善をはじめとする経済の回復であり、長期的には社会保障制度の改善などであろう。これらの点は習近平演説でも述べられてはいた。だが、具体的な目標などは設定されていないし、また人事でも李克強、汪洋、胡春華ら市場経済を重視する改革派は一掃された。劉鶴に代わる経済担当者が何立峰だというのも中国の人々には心もとなく映るであろう。「幸福な監視国家」という言葉があるように、中国の人々がアリペイの使用などによって個人情報を政治や党に差し出しているのは、豊かさや便利さが与えられるからであり、そこに一種のバーターがあるからだ。もし、中国共産党が豊かさや便利さなどといったインセンティブを与えなくなれば、人々は習近平と同じ夢が見られなくなるだろう。今後、習近平政権がゼロコロナ政策を調整し、経済回復に全力をあげられるのかがまずは焦点になるだろう。

◆どのような世界秩序を望むのか?
 習近平演説の外交関連部分は新味に欠けるものであった。二〇四九年に偉大なる復興を成し遂げるまで、アメリカとの「競争」を想定するものの、「衝突」を回避し、場合によっては「協力」もしていくという。これはアメリカの対中政策とも付合する。また、アメリカや日本は中露を「力による現状変更」を行う国として一括りにしたが、中国は「平和友好五原則」に基づいて主権侵害を支持するわけにはいかず、また「独立自主の外交方針」に基づき同盟国を持たないため、ロシアを同盟国と見做して全面的支持を与えもしない。つまり、中国は「中露vs先進国」という構図で世界をとらえず、「(中国が主導する/主導したい)新興国+開発途上国vs(時代遅れの)先進国」という構図で世界を捉えようとする。
また、中国はいわゆるdemocratic peaceに基づかない国際関係を想定する。おそらく二〇一四年の中央外事工作会議で決定した方針では、中国は国連を支持し、特に国連憲章の精神を実現すべく、新型国際関係を提起した。これは、ウィンウィンの経済関係を基礎とし、それがパートナーシップ関係となって網の目のように広がることで運命共同体ができあがるというものだ。粗雑な議論ではあるが、中国としては初めて明確に国際秩序を提起したということになる。他方、アメリカを中心とする既存の世界秩序については、それが⑴国連と関連組織、⑵アメリカを中心とする安保ネットワーク、⑶西側の価値観によって構成されているとし、中国としては⑵⑶は受け入れられず、⑴のみ受け入れるとした。
 他方、経済の面から見れば、西側諸国からの投資を受け入れ、技術移転を実現し、西側諸国も無関税で中国製品を買ってもらうという構図は過去のものとなり、西側諸国との協調を謳った「韜光養晦」もまた習近平政権になってほぼ使われなくなった。経済は「二つの循環」においては国内大循環に重点が置かれ、「共同富裕」では共同に焦点が当てられる。経済が重要だから西側諸国との関係を大切にするというインセンティブは従前よりも小さくなっている。それだけに、日中関係の関係改善とはいっても、日米同盟には反対し、尖閣諸島問題では譲歩せず、経済面での協力も限定的な状態であり、まして経済安保の問題などがあることから、劇的な改善ということは望むべくもない。それはただ首脳交流ができる程度に関係を正常化するというにすぎない。他方、習近平は第二十回党大会の演説で大国との関係を適切に処理するとしていた。バイデン大統領、ショルツ首相、岸田首相との会談における習近平の笑みはそれを示していたのだろう。
 他方、台湾については直接台湾本島を軍事攻撃するという意味での「台湾有事」は当面先になるだろう。中国は、当面台湾を軍事解放できるだけの軍事力を持とうとし、それを台湾社会に見せつけ、またフェイクニュースやサイバー攻撃で台湾社会を不安に陥れ、そして経済制裁を行うなどして圧迫を加え、台湾の人々が独立も現状維持も無理で、統一しか選択肢がないと思うように仕向けている段階にある。問題は、この方策では効果がないと中国側が認識する時だ。その時、軍事的圧力を強化し、台湾海峡や南シナ海の島や岩礁を占領するといったことは十分にあり得る。このような段階を経て、全面的な軍事力行使に至る可能性があると考えるのが妥当であろう(二〇二二年十一月二十六日脱稿)。

(グローバル地域研究機構/国際関係)

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