HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報645号(2023年5月 8日)

教養学部報

第645号 外部公開

〈後期課程案内〉教養学部 教養学科 去る場所 留まる場所 戻る場所

教養学科長 筒井賢治

 進学選択を前に、後期課程の教養学科について説明せよと言われているのですが、難しい理由が二つあります。まず、すべてを説明することはできないことです。教養学科には三つの大きな分科があり、それぞれ細分化されています。この紙面で、志望や関心の異なる学生ごとに個別のアドバイスを送ることはできません。また知りたいことを志望先所属の教員や学生(先輩)に直接尋ねることも、進学先が出しているホームページを熟読することも、もちろん役には立ちますが、それによって、何もかも理解した状態で進学志望を提出するという境地に達することはできないでしょう。
 もう一つが、志望するところに進学できるのかどうか、必ずしも確実ではないことです。文科一類の学生が法学部に進学するなど、あらかじめ枠が確保されている場合は別として(前期課程の修了要件を満たしている必要はあります)、競争が生じる進学先も少なくありません。この辺りは現役学生の方が詳しいと思うのでお任せしますが、成績という不確定要素が介在する以上、進学先の説明を書く際に、勧誘のように見られかねないような字句を並べることに、私はためらいを感じます。条件が自由選択ではないからです。
 具体的な説明が難しいという理由にかこつけ、まず「駒場に進学する」ということについて書かせてください。駒場キャンパスの後期課程は、私がここで担当する教養学科だけではないのですが、学生数の最も多いのが教養学科なのでお許しください。東京大学は本部が本郷にあるが、入学者は全員、最初の二年間(前期課程)は駒場の教養学部に在籍し、三年次から本郷の諸学部に進学(移籍)して専門を学ぶ(後期課程)─というのが一般的な理解です。ですが、冒頭に述べた通り、駒場にも後期課程があります。
 そこで、前期課程の駒場から後期課程の駒場に進学すると、結局、本郷キャンパスとは無縁な学生生活に終始するのか、渋谷や下北沢にばかり親しみ、安田講堂もほとんど現物は見ず、お茶の水や秋葉原や上野は知らないで過ごすのか、と言われそうです。
 それは間違いです。後期課程の間での単位互換制度があり、授業のために駒場と本郷を毎週行き来する後期課程の学生は多数います。それも両方向的に。本郷に進学したが最後、二度と駒場には足を踏み入れないまま卒業する、あるいはその逆、というケースはほとんどありません。ですので、キャンパス選択というだけの意味で「駒場か本郷か」という二択は、考慮しない方がよいでしょう。
 さて教養学科の説明ですが、まず教養学部の後期課程は大きく三つ、「教養学科」「学際科学科」「統合自然科学科」からなり、順に文系、文理横断、理系という分類です。後の二学科については、それぞれの説明をご覧ください。あくまで大まかにですが、教養学科は、駒場の後期課程で、主に文科系的な分野を扱う組織ということになっています。
 その教養学科は、これまた三つの「分科」からなります。「超域文化科学分科」「地域文化研究分科」「総合社会科学分科」です。他に公式ホームページに「国際日本研究コース」が載っていますが、これは英語だけで東京大学を卒業できるために作った秋入学制度PEAKの後期課程で、四月入学の学生も進学できるのですが、ケースとしては稀なので説明は省かせてください(軽視しているわけではありません。前期課程学生ならどの後期課程への進学も可能にさせるのだという徹底した制度設計には感心しています)。
 次に三つの分科の説明です。が、この場でこれを詳しく説明できないことは、最初に書いた通りです。三分科それぞれ公式ホームページがあり、それぞれに所属するスタッフが執筆していますので、そちらをご覧ください。先輩や知り合いの話を聞くのもいいでしょう。それでも分からず、ぜひ知っておきたいことがあれば、遠慮なく分科やコースに問い合わせてみてください。
 これだけで終わりにするのも何なので、私なりのアドバイスをひとつだけ。教養学部後期課程全体のそれを含め、公式ホームページにはいろいろと新奇な言葉が踊っています。しかし少なくともこれから専門を選択する学生の方々には、「何を」を考えるべきであって「どのように」は関係がないと申し上げたい。みなさん、いろいろ勉強した結果として視野が広くなり、大なり小なりの「学際」や「越境」的な研究に至ることはあるでしょう。しかしあくまでそれは結果であって、これを満たしていないから卒業できない、というようなことは絶対にありません。立派な研究は立派だから評価されるのであって、他に基準はありません。
 教養学科の紹介としては、宣伝の要素がなく、むしろ所属教員から文句の出そうな文章になりました。私自身、学科の現状に不満があるわけでは決してありません。進学を希望する学生はどなたでも歓迎しますし、少しも恥じることなく勧められる進学先だと思っています。しかし、学生からみれば、進学選択が水物である以上、希望通りにいかないことがあります。その問題をスルーするのが私の趣味ではないこと、あと幾つかのローカルなスローガンについてかねがね感じていたことが表出してしまい、このようになりました。ここまで読んでくださった方々の進学選択が、そしてその後の人生が、うまく進むように願っております。

(教養学科長/地域文化研究/古典語・地中海諸言語)

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