HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報645号(2023年5月 8日)

教養学部報

第645号 外部公開

〈後期課程案内〉法学部 法学・政治学を学んでみませんか

法学政治学研究科 副研究科長 沖野眞已

https://www.j.u-tokyo.ac.jp/

 法学部では、法学と政治学とを車の両輪として学びます。法学と政治学は別々の独立した学部になっている大学も少なくありません。法学と政治学を軸としていることは、東京大学法学部の特色であり、強みでもあります。
 では、法学・政治学とはどのようなものでしょうか。キーワードは、三つ、「社会」、「人」、「ことば」です。
 法学・政治学は、社会を扱う社会科学の一つです。人が複数になると考え方の違いや利害の違いが生じます。そのような違いを前に、限られた財や価値をどう分けていくのか、またそれをめぐる対立をどう調整・解決していくのか......、そのための規範が法であり、その政策や意思の決定過程・現象が政治です。人が集まり集団となり、そこで生じる様々な問題の解決のために法と政治は不可欠であり、また法と政治は相互に関連し結びついています(「社会あるところ法あり」、「社会あるところ政治あり」、「政治が法を定め、実現し、法が政治を形づくり、導く」)。そしてそれらを対象とする、法学と政治学は、およそ社会で生起する問題の分析や解決に必要な素養といえます。
 法学・政治学は、人そしてその営みを扱います。それは人に関するものである点で人文科学の一つとも言われることがあります。規範を作り、規範を解釈し運用するには、そして政策や意思決定過程のその現象をつかまえるには、人についての洞察が不可欠です。
 法学・政治学は、ことばを中核とします。社会的課題の分析・解決に「ことば」をもってあたるのがその特色です。法自身が、社会の仕組みや人々の関係や地位をことばによって記述するものです。それは「法という言語」によるものです。ここでは、「善意」とは、「知らないこと」をいう、といった日常用語と少し違う法律用語を指しているのではありません。法的な論理・推論の組み立て、法による記述、―いわば言語の法則や文法のように、法という言語にも、特有の法則や文法があります。
 法学部は、このような法学と政治学を中核とした教育研究を通じて、「法的思考」と「政治学的識見」の基礎を身につけた人材を養成し、そうした人材を社会のいたるところに輩出することを目指しています(実は、人材養成のこの点も「東京大学法学部規則」という規範に定められています)。それはそのような「法的思考」と「政治学的識見」の基礎の修得が社会のいたるところで望まれるものだからです。法や政治というと、国家のそれが典型的に思い浮かびます。しかし、「社会」はそれには限りません。むしろ、人の集団、といってもいいでしょう。テニスサークルを作ろう、というときも、そのルールと意思決定が不可避です。また、大学でも多くのルールが大学の運営やみなさんの大学での生活・活動を支えています。その一方で国家を超えた国際社会もまた法学・政治学の想定するものです。別の面から言うと、社会や集団や組織の中でのあらゆる活動が、法的・政治的な視点に関わります。科学の調査研究であっても、社会の持続可能性への貢献や、そのような調査研究がもたらす社会的な、法的な、あるいは倫理的な問題を常に考慮することが要請されるようになっています。社会は動き、法も政治も動いていきます。社会の問題や課題は日々生起します(新型コロナウイルス感染症問題を経験した私たちには痛感されます)。「法的思考」と「政治学的識見」を活かして望ましい解決、望ましい社会の仕組みやあり方を方向付け、実現していくことを期待される場は広がるばかりです。
 法学と政治学とを大学学部段階で専門的に学んだその先には何があるのか。卒業生の進路を見てみましょう。直近の調査は、二〇二一年度の卒業生についてのものです。卒業生のうち進路調査に回答のあった三五八人のうち、代表的な進路をみると、民間企業が一三〇人、本学・他大学の法科大学院進学が八六人、公務員が六一人、法科大学院以外の国内外での進学が二〇人となっています。民間企業の内訳も多様です(さらに、法科大学院への進学者の法科大学院修了後の進路が、裁判官、検察官、弁護士事務所に限らず、官庁や民間企業(みずからの起業を含めて)もあることを付言しておきましょう)。
 二〇〇四年に法科大学院制度ができ、法学以外の専攻を経て、大学院段階で職業専門家としての法学教育を受ける、この点で米国型の仕組みが導入されました。職業法律家へのルートです。しかし、思うのです。法学と政治学をしっかりと学びその基礎を身につけることこそが、他の専門を志す人にとっても、素養となるのではないのか、と。
 前から法学・政治学に関心はなかったし今もないという人も「食わず嫌い」の可能性があります。法学や政治学に触れるという観点から、文科・理科を問わず一年生のみなさんに向けて、法学部教員による総合科目「現代と法」、「現代と政治」が、駒場キャンパスで開講されています(オムニバスの授業で法学部の教員を知ってもらうという意味もあります)。社会科学ゼミナール(法・政治)や全学自由研究ゼミナールとして開講されている科目もあります。法学部を志すかどうかに関わらず(もちろん志してもらうと嬉しいし、その研究者なども視野に入れてもらうと嬉しいのですが)、法学・政治学を学んでみませんか。

(副研究科長/民法)

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