HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報645号(2023年5月 8日)

教養学部報

第645号 外部公開

〈後期課程案内〉理学部 森羅万象の理を解き明かす

理学系研究科長・理学部長 大越 慎一

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

 東京大学大学院理学系研究科・理学部の歴史は明治十年(一八七七年)に遡ります。現在、理学部は十学科(数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科)、大学院理学系研究科は五つの専攻(物理学専攻、天文学専攻、地球惑星科学専攻、化学専攻、生物科学専攻)から構成されています。
image645_04_2_1.png 理学系研究科・理学部の研究領域は、素粒子、原子、分子というミクロなサイズから、細胞、生物とマクロなサイズを経て、地球の内部から極地、そして太陽系、銀河、宇宙の果てまでを対象としています。また、ビッグバンから始まる宇宙創成、過去、現代、未来に至る長い時間軸を対象としています。人は皆、自然界における未解明な謎に心を惹かれ、それを知りたいと望みます。その答えを追い続けているのが理学系研究科・理学部の研究です。すなわち、理学とは森羅万象の理を解き明かすことです。また、そこで見出された発見や科学技術は、時として産業界に貢献することもあるでしょうし、人々の暮らしにも役立つことに繋がることもあります。理学的な研究は、創薬、マテリアル、AI、Beyo­nd 5G、そして量子技術といった先端分野の礎に繋がる可能性も秘めています。例えば、一九〇一年に東京帝国大学理科大学化学科教授に就任した池田菊苗教授(一八六四~一九三六)は物理化学の基礎的な研究を行った一方で、一九〇七年に、現在「味の素」などの商品名で一般家庭に広く普及しているうま味調味料の主成分であるL─グルタミン酸ナトリウム(図1)を見出しました。この発明は日本の十大発明の一つとして位置づけられています。池田教授が退官時に使用していた教授室は現在も使用されております。現在、CO2濃度の上昇に伴う気温上昇により、地球の環境は人類の未来を脅かしています。そのような地球規模の危機に際しても、理学系研究科・理学部の研究は最も力を発揮しています。事実、CO2による気候変動を予想したのは、二〇二一年にノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎先生(一九五八年博士了)です。我々人類がより良く地球を管理するためには、地球規模の多くの課題を解決する必要があります。そのためには、理学的な研究が必須であると考えています。本年度は理学系研究科施設の東京大学アタカマ天文台(TAO)のTAO望遠鏡がいよいよ本格的な稼働を始めます(図2)。TAO望遠鏡は標高五、六四〇メートルに設置されており世界最高標高の望遠鏡としてギネスブックにも載っています。天文学において新たな発見がもたらされることが期待されています。

image645_04_2_2.png 何事にも左右されない人の直感は、物事の本質をつくことができると信じています。まずは個々の研究分野の高い専門性を身につけることが重要です。その上で、その高い専門性を持った学生が他の専門の学生と交流することで〝気づき〟を得ることが大切だと思っています。将来の地球規模の課題を解決するのも、今まさしく勉学に励んでいる皆さんです。それを支援するため、異分野間交流、国際交流、産学間交流を強力に推進します。例えば国際頭脳循環という観点では、GRASP、UGRASP、GSI、UTRIP、SVAPならびに東京大学共同研究指導型博士課程ダブル・ディグリー・プログラム(東大DD)などの海外交流プログラムを用意しています(図3)。これらは全て皆さんに〝気づき〟を与える場を提供することが目的です。

image645_04_2_3.jpg 東京大学大学院理学系研究科・理学部憲章にも掲げているように、理学系研究科・理学部は、次代を担う若者に理学の理念と方法論を教授し、未知の問題に対する解決の知恵と手段を体得し人類社会の持続的・平和的発展に貢献する人材を育成し、教育・研究成果を広く社会に発信公開すると共に、それらが人類の平和と地球の環境を損なうことのないよう努め、文化の蓄積と悠久の人類生存に貢献します。

(理学部長/化学)

第645号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報