教養学部報
第663号
〈後期課程案内〉教養学部教養学科 教養学部教養学科のご案内
教養学科長 武田将明
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/guidance/depart01.html
通例、東京大学の学生は入学後の二年間(前期課程)を駒場キャンパスにある教養学部で学び、後半の二年間を様々な学部の後期課程で学ぶことになっています。入学時から進学希望の学部を決めている学生もいるでしょうが、駒場での学びで新たな分野に関心をもった場合には、教養学部の後期課程への進学も検討してはいかがでしょうか。
ここでは、教養学部後期課程を構成する三つの学科、「教養学科」、「学際科学科」、「統合自然科学科」のうち、教養学科についてご案内します。教養学科では主に人文科学・社会科学の諸分野を学ぶことができます。もちろん、これらの分野の多くは本学の他学部でも扱われていますが、教養学科ならではの特徴としてあげられるのは、既存の学問の枠にこだわらない分野横断的な研究が可能であることと、各分野での最先端の情報を貪欲に取り込む姿勢が顕著であることです。
より具体的に見ると、教養学科は「超域文化科学分科」、「地域文化研究分科」、「総合社会科学分科」という(発音すると舌を噛みそうな)三つの分科に分かれています。超域文化科学分科には、「文化人類学」、「表象文化論」、「比較文学比較芸術」、「現代思想」、「学際日本文化論」、「学際言語科学」、「言語態・テクスト文化論」の七つのコースがあります。いずれも人類学、芸術学、映画・サブカルチャー研究、演劇研究、文学研究、哲学、言語学、批評理論などの学問に基礎を置きつつも、学際性と同時代性に力点が置かれています。
地域文化研究分科は、「イギリス研究」、「フランス研究」、「ドイツ研究」、「ロシア東欧研究」、「イタリア地中海研究」、「北アメリカ研究」、「ラテンアメリカ研究」、「アジア・日本研究」、「韓国朝鮮研究」の九コースから構成され、その名のとおり特定の地域に関して、文化・歴史・政治・経済など様々な側面から詳細に研究することができます。
総合社会科学分科を構成するのは、「相関社会科学」と「国際関係論」という二つのコースになります。相関社会科学コースでは、社会科学の基礎領域を分野横断的に学びながら、現代社会が直面する諸問題を探究することを目的とし、国際関係論コースでは、国際政治・国際法などの多様な分野を学びつつ、グローバル化が進行する現代社会を複合的に研究することを目指しています。
さらには、PEAK国際日本研究コースも教養学科の一コースであり、前期課程でPEAKに所属していない学生も進学先として選択できます。JEA(Japan in East Asia)という英語名から分かるように、このコースでは東アジアにおける日本の文化・歴史・政治・経済などを英語で学べます。
教養学科で学べることの概要は以上のとおりです。より詳しくは、教養学部後期課程のウェブサイト、および各コースのウェブサイトなどをご参照ください。また、二〇一九年に教養学部創立七〇周年を記念して刊行された『東京大学駒場スタイル』(東京大学出版会)では、現役の教員や卒業生(政治家の川口順子氏、作家の小野正嗣氏、小川哲氏、批評家の東浩紀氏など)の寄稿・インタヴューを読むことができるので、こちらも参考にしてください。
他に付け加えるべきこととしては、各コースや年度によってある程度違いはありますが、教養学科の多くの授業は少人数で実施され、学生と教員との距離は比較的近く、きめ細やかな指導を受けられます。各コースのコモンルームでは、連日学生たちがアカデミックな議論から日常生活の話題まで、さまざまな会話に花を咲かせている光景が見られます。卒業生の就職先は、官公庁、国際機関、メディア、金融、商社、教育関係など多岐にわたっており、また同じ駒場キャンパスの総合文化研究科など人文科学・社会科学系の大学院に進学し、さらに研究を深める学生も少なからず見られます。
また、これは前期課程においてすでに実感されたでしょうが、教養学部のある駒場キャンパスでは、連日のようにありとあらゆる講演会やイベントが開催され、知的な刺激に溢れています。他学部・他キャンパスでもこうした行事は多数あるでしょうが、上述の膨大なコース名が象徴する、教養学部の壮大なる知的世界が決して広大とは言い難い駒場キャンパスに凝縮されているがゆえに、意外な出会いが待っている可能性が高いと言えます。実際、上記の『東京大学駒場スタイル』に寄稿された小川哲氏のように、理系の科類に入学しながら、駒場である一冊の本に遭遇したことをきっかけに教養学科へと進学先を変えた例もあります。
教養学科の英語名はDepartment of Humanities & Social Sciencesですが、大学等で修得する一般教養に当たる英語はliberal artsになります。今日、この「リベラル」という言葉ほど濫用されているものは少ないでしょう。あるときには革新的な政治思想と同一視され、またあるときには(「ネオリベラリズム」という呼び方で)社会保障などを否定する保守的な思想と結びつくこともあります。しかし、この言葉の本来の意味に立ち返るならば、リベラルとは、あるいは教養とは、専門知の枠にとらわれない、自由で幅広い知的発展のことであり、特定の主義主張に凝り固まった姿勢とは対極的なものです。様々な主張・利害をもつ国家・宗教・民族などが複雑に関わり合う現代社会においてこそ、こうした意味の教養を身につけ、広い視野と柔軟な発想で粘り強い対話をおこなうことが肝要になります。教養学科での学びは、間違いなくこうした意味での教養を培うための素地となるでしょう。
(教養学科長/言語情報科学/英語)
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