教養学部報
第664号
<時に沿って> ふとした直感
河上龍郎
二〇二五年四月より、大学院数理科学研究科に着任しました。私は学部から博士課程まで東大数理で学び、その後は京都大学数学教室でポスドクおよび助教として勤務していました。今回、再び東大数理に戻ってくることとなり、感慨深く思っています。
この記事を読んでくれている学部生の皆さんに向けて、少し学部時代のことを振り返ってみたいと思います。実は、私は進学振り分けの際には数学科ではなく、物理学科に進学しました。高校時代から物理が好きで、特に理論物理に対する漠然とした憧れがあり、特に迷うことなく物理学科を選択しました。しかし、物理学科で本格的に学び始めると、次第に数学への興味が強くなっていきました。
そんな折、数学科の先生による代数学の授業を受ける機会がありました。これは普段駒場キャンパスにいる数学科の先生が、物理学科のある本郷キャンパスに来て行う特別な講義です。内容はとても難しく、当時の私には半分も理解できませんでした。それでも「自分に向いているかもしれない」と直感し、転学科を決意しました。今思えば大胆な決断でしたが、直感に従って生きようと思いました。現在の私の専門は、まさにその授業の延長線上にある分野であり、今でも夢中で取り組むことができているので、その時の私の直感は正しかったようです。
転学科によって1年進級が遅れましたが、それは私にとって初めての回り道だったかもしれません。しかしその経験を通じて、選択肢が広がり、自由な気持ちで学問に向き合えるようになったと感じています。
研究についても少しお話したいと思います。よいアイデアが浮かぶのは、たいてい暇なときです。忙しい中でも何もしない時間を意識的に作るよう心がけています。最近では、新幹線でうとうとしていたときに、2年前に行き詰まっていた問題の証明を突然思いつきました。「突然」とはいっても、これまでの研究の蓄積があったからこそで、全くの偶然ではないのでしょう。同じ問題を継続的に考え続けることも大切だと感じています。ずっと考え続けるというのは、常に頭の中にあるというより、折に触れて思い出しては再考するという意味です。その繰り返しが、新たな視点や発見につながることがあります。
また、行き詰まりを感じたときは、他の研究者と会話するようにしています。話題は必ずしもいま取り組んでいるテーマでなくても構いません。そうした対話から得られる刺激が、新しいアイデアをもたらしてくれることが少なくありません。
これから東京大学で多くの学生や研究者と関わっていくのを楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします。
(数理科学研究科)
無断での転載、転用、複写を禁じます。