HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報664号(2025年6月 2日)

教養学部報

第664号 外部公開

<時に沿って> 人との縁に導かれて

池 祐一

image664-03-2.png 四月に数理科学研究科に着任した池祐一と申します。私は新潟出身で、東京大学入学に際して上京し、理科一類・理学部数学科・大学院と博士課程まで九年間を駒場で過ごしました。駒場に戻ってくるのは七年ぶりです。再び活気のあるキャンパスに戻ってきたなと感じています。

 私は中学・高校時代に学校や塾の先生のおかげで数学が面白いと思うようになりました。大学に入って初日の微積分の授業で、先生がいきなり実数を構成すると言い出して何もわからなくなりました。でも、わからないなりに頑張って考えていたら、だんだん面白くなってきました。今ではあの時の大鬼の先生に感謝しています。

 数学科に進学した後は、周りには恐ろしく数学ができる人たちがたくさんいて、やっていけるか心配になりました。でも、みんな何もわからない私にいろいろ教えてくれて優しくしてくれました。同期や先輩・後輩には、今でも困ったときにすぐに質問したり、一緒に論文を書いたりする人たちがいます。

 博士課程修了後は、金銭的な問題や様々な事情により、企業の研究所に勤めることに決めました。博士三年のときに受けた面接の際に、後の上司から、入社後は「位相的データ解析」なるものをやってみないかと提案され、よくわかっていなかったものの二つ返事で承諾しました。やると言ったからには少しは勉強しないといけないと思って、同期や先輩とセミナーを開いて勉強しました。そうしたら、そのとき研究していた問題に位相的データ解析で使われる道具立てがちょうど役立つことがわかって、同期との共同研究および博士論文の一部になりました。

 企業研究所に入社後は、位相的データ解析についてフランスの専門家たちと共同研究するという仕事を任されました。私が属していたチームは、上司も含めて皆さん数学に理解のある人たちばかりで、研究の中身や進め方をほぼ一任され、とても楽しく仕事ができました。入社二年目には、二か月ほどパリに滞在して共同研究を進めるという機会ももらいました。おかげで機械学習とも関係していくつか論文を書くことができました。そうしていたら東京大学の情報理工学系研究科から声がかかり、助教として約二年間勤めました。その後、九州大学マス・フォア・インダストリ研究所で准教授として二年間勤務し、現在に至ります。

 こう書いてみると、私のこれまでの人生は、いつも人との縁にうまく導かれて進んできたように感じます。私はたぶん数学者の中では比較的珍しく、あまり一人では面白い数学ができず、いつも複数人での議論の中で共同研究していくというタイプの人間です。今後も引き続き、共同研究者・同僚・学生・その他大勢の方々との縁を大事にしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

(数理科学研究科)

第664号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報