HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報664号(2025年6月 2日)

教養学部報

第664号 外部公開

<時に沿って> 駒場で改めてネタ作り

武政雄大

image664-03-3.png 令和七年四月一日付で、総合文化研究科広域科学専攻・相関基礎科学系の助教に着任いたしました、武政雄大と申します。

 学部の後期課程からは本郷に拠点を移し、博士取得後は京都大学にて一年間研究に従事してまいりましたが、このたび再び駒場の地に戻ることができ、大変嬉しく思っております。

 専門は有機化学で、とりわけ「面白い構造をもつ分子の電子状態」に強い関心を抱いています。中でも、炭素以外の元素─いわゆるヘテロ元素を含む有機化合物が示す、特徴的で時に予想外の電子状態(電子軌道)に魅了され、日々研究に取り組んでいます。今では電子軌道が夢に出てくるほど、有機化学に浸る毎日です。

 とはいえ、駒場の学部時代には、むしろ「漫才」に没頭していました。少人数のメンバーで何組ものコンビを掛け持ちし、毎月のようにライブを行っていたのは、今でも忘れがたい思い出です。駒場を歩いていると、当時のようにお笑いに打ち込む後輩たちに出会えるのではと、ひそかに期待しています。

 実は、研究と漫才には意外な共通点があると感じています。明確な評価基準はないにもかかわらず、「面白い研究」や「面白い漫才」は確かに存在し、それを生み出すには、自らのオリジナリティを信じて形にするしかありません。研究費が不採択になったときと、漫才の大会で自分が「面白い」と感じたコンビが評価されなかったときの悔しさは、どこか似た感覚があります。また、面白いと思っている研究を発表しているときに見える、聴衆の反応は、駒場のコミュニケーションプラザでネタ見せをした時の仲間たちの顔に重なることもあります。

 漫才を通じて、人前で話す技術や発信の力を得ることはできましたが、今になって少し後悔していることもあります。それは、「漫才で競ってみるべきだった」ということです。自分のオリジナリティを表に出し、それが評価される過程には痛みを伴うこともありますが、そうした経験を学生時代にもっと積んでおけば、今、より自由に・開かれた形で研究を外に伝えていく力を身につけられていたのではないかと感じることがあります。

 学生漫才師としてではなく、研究者としてこの駒場の地に戻ってきた今、改めてこの総合文化研究科という自由な環境のなかで、自分のオリジナリティをさらに磨いていきたいと考えております。そして、研究のみならず教育においても、学生の皆さんとともに学び、「面白い」ことを突き詰めていける関係を築いていければと思います。

 駒場は、教養学部生がそうであるように、専門の垣根を越えた思考や対話が自然に生まれる環境だと感じています。このような場でこそ、自身の研究にも新たな視点を取り込みながら、分野を越えたつながりを育み、オリジナリティを伸ばしていけるのではと楽しみにしています。学生・教員を問わず、気軽に声をかけていただけたら嬉しいです。

 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(相関基礎科学/化学)

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