HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報664号(2025年6月 2日)

教養学部報

第664号 外部公開

<時に沿って> 無機化学の魅力

原口直哉

image664-04-2.png 二〇二五年四月に広域科学専攻 物質設計学講座無機化学分野 助教に着任しました原口直哉(はらぐちなおや)と申します。専門は無機化学で、特に「金属酸化物クラスターを基盤とした材料の設計・合成」に取り組んでおります。私が無機化学分野での研究をはじめたのは学部四年生の卒業研究からで、それ以来六年間に渡り無機化学分野での研究を続けてきました。そこで、ここではこれまでの研究を通じて私が感じた「無機化学の魅力」についてお話しし、自己紹介に代えたいと思います。

 そもそも化学を専門としない人に化学のイメージを訊くと、日本人のノーベル化学賞受賞者に有機化学分野の先生方が多いこともあって、多くの人は有機化学や有機金属化学に関連した化合物や反応を思い浮かべるのではないでしょうか。一方、無機化学は有機化学と比べるとそのイメージ自体がはっきりとしない方も多いかと思います。これは、無機化学が取り扱う元素が実質的に「周期表上の全元素」であるという多様性/複雑性に起因するものと考えられます。一方で、この取り扱う元素の多様さは、無機化学の魅力でもあります。無機化学では、周期表上の幅広い元素を取り扱うため、似た材料を取り扱う研究者間でも得意とする元素・関心のある元素が研究者個々人で異なり、研究者の個性が扱う元素の種類に強く表れるように思います。実際、同じ研究室に所属する研究者同士でも取り扱う元素の組み合わせが全く異なるということが、無機化学分野の研究者ではよくあることです。また、無機化学では扱う元素の種類が多いため反応の組み合わせも無数に存在し、簡単な反応でこれまで報告されていなかった構造や組成をもった材料が偶然得られることも多々あります。こういった「想定外の反応」から新しい化合物群の合成法が開かれる可能性を秘めている点も、無機化学の魅力的な点と私は考えています。

 このように、無機化学では多様な元素を取り扱うことから、限られたごくわずかな種類の元素の可能性を追求することも、様々な種類の元素の組み合わせを取り入れていくこともでき、その研究の広げ方・深め方に研究者個々人の個性やこだわりが強く表れる点が、私自身の考える無機化学の魅力、楽しさ、奥深さです。

 今後、助教としての任期を通じて駒場の先生方、学生の皆様と化学を通じて交流できることを楽しみにしております。何卒よろしくお願いいたします。

(相関基礎科学/化学)

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