教養学部報
第664号
<時に沿って> 末端に導かれて
山本唯央
はじめまして。二〇二五年四月に生命環境科学系・加納研究室の助教に着任いたしました、山本唯央と申します。これまで私は、線状染色体の末端構造である「テロメア」に結合する因子の機能について研究を進めてきました。現在は分裂酵母を用いて新たな視点から「テロメアの意義」について研究しております。
「時に沿って」という題のもと、私のこれまでの歩みについて振り返りたいと思います。私は東京で生まれ育ち、その後、京都大学にて学部から博士後期課程までを過ごしました。大学にて恩師の授業を受け「テロメア」の構造的・機能的な美しさに魅力を感じたことが、研究の道に進むきっかけとなりました。学生実習で分裂酵母の環状染色体を顕微鏡下で観察した際の強い感動もまた、現在につながる原体験です。その後、スウェーデン・ヨーテボリ大学にてポスドクとして勤務し、線虫をモデルとしたテロメア機能の解析に従事しました。研究対象を単細胞生物から多細胞生物と変えたことで、当初はその複雑さに戸惑いもありましたが、テロメアの変化が個体の形態や生殖能に与える影響、さらには世代を超えた長期的な影響を直に解析する機会を得たことは、研究者としての視座を大きく広げる契機となりました。
また、スウェーデンにおける生活で特に印象的であったのは、「助け合い」と「対話」を基盤とした研究文化です。春のイースター、夏の長期休暇、冬のクリスマスといった季節ごとの節目において、研究者はしっかりと休暇を取得しつつも、互いに業務を補い合う体制が自然と構築されており、研究活動全体の効率が損なわれることはありませんでした。とりわけ冬季には午後三時頃には日が暮れるため、朝早くから業務を開始し、明るい時間帯に集中して仕事を終えるといった生活リズムが一般的であり、そうした時間の制約の中で、互いに助け合いながら高い集中力を保つ姿勢には新鮮な驚きがありました。また、研究科においては、毎週のFika(お茶会)や年末のクリスマスパーティーといった機会が定期的に設けられ、学生・職員・教員が立場や専門分野を越えて対話を重ねる文化が根づいており、チームとしてサイエンスや教育に取り組む姿勢に強い感銘を受けました。
そしてテロメアというテーマを通じて、ここ駒場にご縁をいただきました。駒場キャンパスの学際的な研究環境に大きな刺激を受けております。周囲との対話を大切にしつつ、自身の専門を深化させるとともに、広く研究を発展させていけるよう努めてまいります。これまで多くの方々から受けた刺激や学びを、今後は後進に還元していける存在となれるよう、精進してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
(生命環境科学/生物)
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