教養学部報
第666号 ![]()
<時に沿って> 競技現場と科学の架け橋を目指して
岡部文武
今年度より、生命環境科学系、スポーツ・身体運動部会の助教に着任しました岡部文武と申します。専門領域はバイオメカニクスとコーチング科学であり、「スピードスケート競技における滑走技術」に関する研究に取り組んでいます。また、スピードスケート選手の強化活動にも関わっており、競技現場と向き合いながら研究を進めることを大切にしています。
私は元々インラインスピードスケート競技に取り組み、日本代表として国際競技大会にも出場していました。学生時代は、スポーツ科学に関する文献を読み漁り、YouTubeで配信される国際競技大会の映像から世界一流選手の動きを研究する日々を過ごしておりました。しかし、努力を重ねても世界一流選手には遠く及ばず、「何が世界一流選手と違うのか?」と疑問を抱くようになりました。これが私の研究の出発点であり、現在に至るまでの原動力となっています。
修士課程では、競技水準の高い選手が「何を・どのように考えて滑走しているか?」「どのような運動を意図しているか?」を丁寧に理解する必要があると考え、彼らのコツ・カンに焦点を当てた質的研究に取り組みました。そのなかで、一見同じ動作でも、全く異なる運動感覚で実践している選手や、意図する運動が同じでも表現が大きく異なる場面に数多く直面しました。この経験は、運動の質的研究の面白さを実感させてくれた一方で、誰にでも通用する運動、いわゆる運動技術は何か?という問いが新たに生まれました。
この問いを解決すべく、博士課程で運動を定量的に評価できるバイオメカニクスを専攻することを決意しました。力学的な観点から動作を分析することで、より客観的で普遍性のある知見を得られると考えたからです。定量的な動作分析を通じて、「指導現場では常識とされていた運動が、実は非効率的な運動」という結果をたくさん得ることができました。博士課程三年時に競技生活を引退した後、これらの結果を現場に還元し、競技力の向上に貢献したいと強く願っていました。
しかし、実際の現場では、力学的に正しい動きであっても、選手や指導者に受け入れられ難い場面に幾度となく直面しました。この経験を通じて、「論理的な正しさ」と「納得感」には大きなギャップがあるという現実に気づかされました。こうした経験から、私は「現場とともに考える姿勢」を大切にしたいと思うようになりました。
現在は定量的な分析と、運動感覚といった主観的要素の両方を重視しながら、研究に取り組んでいます。科学的な客観性を保ちつつも、実践者の運動感覚を理解することで、より実用性の高い知見を創出できると確信しています。教育現場でもこのような姿勢は大切にしたいと考えており、「動いてみて気づく」「うまくいかない理由を探る」ことを通じて、身体運動の奥深さや面白さを体験してもらいたいと考えています。これまで培ってきたスポーツ現場での経験を活かしながら、より一層教育・研究に取り組んでまいりますので、何卒よろしくお願い致します。
(生命環境科学/スポーツ・身体運動)
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