HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報669号(2026年1月 6日)

教養学部報

第669号 外部公開

<送る言葉> 香港研究の開拓者、愛情溢れる研究者

中村元哉

 私は、一九九七年春に本学文学部を卒業して、総合文化研究科地域文化研究専攻に入学した。その一年後に谷垣先生が着任されたと記憶している。

 院生時代の私は、中国留学などが重なったため、先生の演習に参加する機会はなかったが、学会や国際会議で何度かお会いしたことがある。先生はその頃の私との会話や振舞いなど何一つ覚えていらっしゃらないと思うが、私は、先生とのやりとりを通じて、自分の身近な学術環境が時代に応じて変化していることを好意的に受けとめた。その内容は二つある。

 一つ目は、それまで中国研究の周縁に位置づけられてきた台湾研究に加えて香港研究もこれからは駒場キャンパスから自立的に発展していく、という一種の高揚感である。現代香港を専門的に分析するだけでなく、そこに香港の歴史や文化のロジックを効果的に埋め込んだ第一人者は、おそらく谷垣先生であろう。先生は、その後の香港の重要性を先読みしたかのような、いわば開拓的な地域研究者だった。

 二つ目は、研究内容からは離れるが、駒場で開催された国際会議でお嬢様と一緒にご登壇され、ご挨拶をされていたことである。少なくとも自分の研究分野は、子育てとの両立にも理解のある環境へと急速に変化しつつあるのだな、と感じた。そういう雰囲気が当時の若手研究者の間に広がった効果は、かなり大きかったのではないかと思う。

 私は、その後、私大での約十五年の勤務を経て駒場キャンパスに戻り、谷垣先生とは同僚として日々接することになった。駒場の複雑な三層構造に即して言えば、私は、前期の中国語部会でも、後期のアジア・日本研究コースでも、大学院の地域文化研究専攻でも、先生とはすべて同じ組織に属するディープな研究者の一人となった。

 私は、とりわけ学生指導の面で不安を抱える度に、谷垣先生から有益なご助言をいただき、心が軽くなった。先生には随分と助けられたと感じている。また、同僚となって初めて知ったことは、先生がお子様にだけでなく、すべての学生に対して深い愛情を注がれていたことだった。先生は、どの学生にも分け隔てなく親身に接していらっしゃるが、とりわけ、ご自身の学問的出自にも関わる後期課程のアジア・日本研究コース生への愛着は相当に深いと感じた。コロナ渦で学生との関係がやや希薄になったことをきっかけとして、コースの卒業生に対して「あなたたち一人一人が大切です」というメッセージを込めるかのようにバラの花一輪を手渡されてきたことが、すべてを物語っているだろう。

 他にも、香港という現場で研究をご一緒したことなど、書きたいことは山ほどあるが、紙幅が尽きてしまった。最後に、この場をお借りして、駒場キャンパスでの長年の研究・教育両面における多大なるご貢献に深く感謝申し上げます。誠に有難うございました。

(地域文化研究/中国語)

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