HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報673号(2026年6月 1日)

教養学部報

第673号 外部公開

<時に沿って> つながりの中で

陳 奕廷

image673-4-2.jpg 二〇二六年四月一日付で、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻(英語部会)に准教授として着任いたしました、陳奕廷と申します。台湾・台北市の出身で、専門は、ことばと人間の認知のかかわりを探る認知言語学です。近年は、概念間のつながりに着目して言語を分析する「関連言語学」という新たな研究領域の構築に取り組んでいます。コーパスと呼ばれる大規模な言語データベースを用い、ある言語概念そのものを見るのではなく、それがどのような概念と結びついて現れるのかをたどることで、その輪郭を浮かび上がらせようとする試みです。たとえば、日本語の「愛」と英語の"love"のように、一見よく対応しているようでありながら、実際には異なる広がりや含意をもつ抽象的な感情概念の違いも、このような間接的な方法によって捉えることができます。

 SF小説『三体』の中に、ある恒星の位置をマークする手段として、周囲の恒星との相対的な位置関係を利用するという一節があります。そうした関係の総体は、その星にとって一種の「指紋」のようなものであり、そのような唯一無二のパターンによって間接的に星の位置を特定できるのです。言語研究においても同じように、ある概念そのものを正面から定義しようとするだけでは捉えにくい性質が、その概念が何と結びつき、どのような関係のなかに置かれているかを見ることで、かえって鮮明になることがあります。私は、こうした「つながり」から概念を理解する視点に、大きな可能性を感じています。

 振り返ってみると、私自身の歩みもまた、さまざまなつながりによって形づくられてきました。父は日本人、母は台湾人で、私は台湾に生まれましたが、小学六年生から中学一年生の途中まで埼玉県で暮らしました。日本語を身につけたのはこの時期で、言語を獲得することが、そのまま世界の見え方を広げる経験でもあることを実感しました。その後は台湾に戻り、大学では情報工学を学びましたが、次第に言語そのものへの関心が強まり、日本語学科へ編入しました。国立台湾大学で修士課程を修了した後、博士課程では再び日本に渡り、神戸大学で言語学の博士号を取得しました。博士論文では、日本語と中国語の複合動詞を扱いましたが、それもまた、複数の要素が結びついて新たな意味を形づくるという意味で、「つながり」をめぐる研究だったように思います。国家、文化、言語、そして文系と理系という学問領域のあいだを行き来しながら歩んできたことが、現在の研究の背景にあります。

 私はこれまで主に関西で学び、研究してきたため、東京大学には長らく直接のご縁がありませんでした。そのような私を受け入れてくださった言語情報科学専攻に、懐の深さと開かれた学問的風土を感じています。この新たなつながりを大切にしながら、今後は、文系の自由な発想と理系の客観的な検証方法とを結ぶ存在として研究と教育に取り組んでいきたいと考えています。そして、認知言語学を軸に国際的な研究ネットワークの「ハブ」を駒場で作るとともに、多くの学生との出会いを通して、さらに豊かなつながりを生み出していければ幸いです。

(言語情報科学/英語)

第673号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報