HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報673号(2026年6月 1日)

教養学部報

第673号 外部公開

<時に沿って> 駒場に戻って思うこと

武正泰史

 着任が正式に決まってから、正直実感が湧かない、ふわふわとした感情を抱きながら過ごしていた。昨年三月に学位を頂いた時、駒場に戻ることになるなど考える余裕もなく、まずは目の前のことに取り組まなければいけない状況だったからというのもある。この原稿を書いている現在では、諸々の手続きを行い、所属先のガイダンスに参加して、授業が始まり、自分の研究も進めて......、慌ただしく過ごしながら講師として駒場で過ごすようになったのだとひしひしと感じている。

 これまで関心を持って取り組んできたのは、江戸時代の科学、とりわけ数学(和算)の歴史についてである。実は東大には千点近くもの和算の書物が所蔵されている(駒場ではなく本郷の総合図書館だが......)。その中には関東大震災の時、辛うじて焼失を免れた書物もあり、文字通り歴史を感じる史料が多数現存している。他にも江戸時代の科学の歴史を研究する上で重要な史料は数多くあり、そうした史料群にアクセスできる環境に戻ってこられたことは幸運という他ない。少しでも当時の科学知の実践のあり方について、明らかにすることができればと考えている。

 とはいえ、必要に応じて学外にも足を運んでいかなければとも思う。江戸時代の科学史を研究する上で、版本や写本を問わず多くの史料を見ることが必要であり、大学院生のころから各地で史料調査を行ってきた。学位論文で扱った久留米藩の大名であった有馬頼徸(ありまよりゆき、一七一四~一七八三)という人物について、藩主としての動向を知るために久留米にうかがい、自筆史料を閲覧するために奈良での調査も実施した。コロナ禍で予定していた調査を行うことができなかった時は、デジタルアーカイブで閲覧できる史料を細かく読んでいたのを思い出す。デジタル公開されている史料もうまく使いつつ、足を使って現史料を見る重要性を、学生から講師となっても忘れないようにしなければならない。

 駒場には様々な分野を専門とする研究者がおり、学生も好奇心に応じて多様な学問分野に自由に触れることができるだろう。時間の許す限り、興味関心のある学問の世界にのめり込んでもらえればと願いつつ、時には学外にも足を運び、様々な挑戦や経験を積み、知的好奇心を満たしてほしいと思う。自分の知らない何かに触れることで、思いもよらない発見が得られるかもしれない。その上で自身の興味が科学史や和算の歴史に向くのであれば、積極的に交流する機会を持てればと期待している。微力ではあるが、学生の抱く疑問や関心に応えられるよう貢献できればと考えている。

(相関基礎科学/哲学・科学史)

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