教養学部報
第673号 ![]()
<時に沿って> 数学という共通言語
毛塚由佳子
二〇二六年四月に数理科学研究科に着任いたしました毛塚由佳子と申します。専門は数論で、特に楕円曲線や岩澤理論の研究をしています。
楕円曲線に関する主要な未解決問題のひとつに、Birch-Swinnerton-Dyer(BSD)予想があります。この予想は二〇〇〇年にクレイ数学研究所によって、七つのミレニアム懸賞問題のひとつに選ばれました。岩澤理論はこの予想にアプローチするための非常に強力な方法のひとつであり、私もその観点から日々研究を進めています。
これまで英国、ドイツ、フランスで研究・生活する機会があり、その中で数学が国や文化を超え、さらには時代をも超えて、人と人とを結びつける営みであることを感じてきました。
数論の有名な問題のひとつに、フェルマーの最終定理があります。これは十七世紀にフランスの数学者フェルマーによって提起され、解決までに約三五〇年という長い年月を要しましたが、一九九四年にイギリスの数学者アンドリュー・ワイルズによって証明されました。数学の未解決問題と向き合うということは、大聖堂を建てるときのように、完成までにたとえ何百年もかかり、自分自身はその完成形を見ることができなかったとしても、その一部に関わることに確かな意味があると思えるところに、私は魅力を感じます。
また、数学のもうひとつの面白さは、学びを深めれば深めるほど、他の分野とのつながりが見えてくることです。一見するとまったく関係がないように思える分野が、深いところで結びついていることに気づかされる瞬間があります。そうしたつながりに触れるたびに、数学の世界の豊かさを改めて感じます。
もっとも、専門的な数学の魅力は、音楽や芸術に触れたときと比べると感覚的には共有しにくい面もあります。もちろん、それらも深く理解するには時間や経験が必要ですが、コンサートや展覧会、舞台公演のように、専門的な知識がなくてもまずは触れることのできる入口があります。それに比べると、数学の専門的な世界は最初の入口がやや見えにくく、少し敷居が高く感じられるのかもしれません。それでも実際には、知れば知るほど世界が広がっていくような魅力のある分野です。数学者でない方々にも、数学には言葉だけでは伝えきれない奥行きがあることを、少しでも感じていただけたらと思います。
駒場という地で、多様な専門分野や背景を持つ方々と接しながら、自分の研究を深めるとともに、授業や日々の対話を通して数学の魅力を少しでも開かれた形で伝え、私自身もまた新たな発見を重ねていければと願っております。どうぞよろしくお願いいたします。
(数理科学研究科)
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