教養学部報
第674号 ![]()
<時に沿って> 多様な経験を次世代の糧に
高木 翼
二〇二六年四月付けで総合文化研究科広域科学専攻相関基礎科学系に助教として着任いたしました、高木翼と申します。専門は光物性物理学です。固体中の電子が光に対してどのように応答するか、その微視的なメカニズムの解明と新しい機能性の開拓を目指し研究を行っています。
私の略歴ですが、旭川高専のシステム制御情報工学科にて工学の基礎を学んだ五年間を経て、大阪大学工学部の応用自然科学科(応用物理学コース)へと三年次編入しました。その後、東京大学大学院工学系研究科の物理工学専攻に進学し、博士号を取得して本職に至ります。 大学院時代の所属は東大でしたが、実際の研究活動の拠点は理化学研究所にありました。周囲が「研究のプロフェッショナル」ばかりという環境に身を置く中で、かつて抱いていた研究者への憧れは、次第に、日々探究を積み重ねるという現実的な感覚へと変化していきました。職業として強く意識するよりも先に、目の前の現象と真摯に向き合う諸先輩方の姿に感化され、気づけば私自身もこの道を歩み続けていた、というのが正直な実感です。
研究生活の多くを理研で過ごし、さらに大学院時代がコロナ禍と重なったこともあり、これまで東大のキャンパスに関わる機会は限られていました。しかし全く縁がなかったわけではなく、昔から続けてきたベースの演奏を通じて本郷のジャズ研究会や、駒場のビッグバンドサークル(JJW)に所属し、学生たちと交流することができました。研究においては遠い存在だった駒場ですが、音楽を通じて慣れ親しんだこの場所で、今度は教員として教育・研究に携われることに不思議な縁を感じています。
これまでの主な研究テーマは、光物性の中でも「バルク光起電力効果」と呼ばれる現象です。これは、反転対称性が破れた結晶構造を持つ物質に光を照射すると、外部電圧の印加なしに自発的に電流が流れる現象です。この現象は「量子幾何学」という、電子のバンド構造に潜む概念に駆動されており、最先端の物性物理学における学術的興味と、光センサや太陽電池といった実用的な応用可能性が交差しています。この「理学と工学の境界」にある領域に、高専出身としての背景が重なり、大きな魅力を感じて研究を続けてきました。
ところで、私の研究姿勢に大きな影響を与えたのは、大阪大学時代の恩師である関谷毅先生です。先生は専門分野を転換されながらも、その根底には常に「微小電気計測」という揺るぎない技術的基盤(芯)を据えておられました。私自身も、今後は「揺らぎ」や「超高速分光」をキーワードに自身の芯を確立し、物性物理学の枠にとどまらず、量子光学や量子情報といった分野への展開も見据え邁進していきたいと思います。 相関基礎科学系という、多様な専門性が交差する駒場の環境で、学生の皆さんと共に研究ができることを楽しみにしております。また、高専から編入、理研での修行という歩みが、学生たちの進路選択における一つの参考になれば幸いです。
(相関基礎科学/物理)
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