教養学部報
第674号 ![]()
<時に沿って> 反応の中で
チェン・タックン
令和八年四月一日に総合文化研究科広域科学専攻・相関基礎科学系の助教に着任しましたChen Thakun(チェン・タックン)と申します。化学は物質と変化を扱う学問であり、本稿の題目である「時に沿って」とも、また私自身の歩みとも静かに響き合うもののように思われます。振り返れば、私の研究と人生は、いくつかの転機に導かれながらかたちづくられてきました。
もともと私は数学や自然科学に強い関心を抱き、それらを有機的に結びつけうる化学工学を専攻として大学に進学しました。異なる原理が一つの体系の中で交差し、相補的に機能することに魅力を感じていたのです。しかし、学びを深めるにつれて、私の関心は次第に、より根源的な問いへと向かっていきました。
最初の大きな転機は、ソウル大学で受講した有機化学の講義にありました。複雑な分子が、目に見えない規則に従いながら精緻に反応していく様子に触れたとき、その背後にある機構の奥行きに強く惹かれました。このとき、有機化学の研究に携わりたいという思いが明確なかたちを取り始めました。学部では複雑分子の全合成に取り組み、分子を一つひとつ組み上げていく過程の中で、時間の積み重なりがやがて一つの構造として結実する感覚を実感しました。
その後、全合成の研究を通じて、遷移金属触媒の果たす役割に強い関心を抱くようになりました。これが第二の転機となり、研究の軸足は触媒化学および有機金属化学へと移っていきました。とりわけクロスカップリング反応は、精密な分子変換を可能にする点で魅力的であり、その発展の重要な舞台である日本へと私を導きました。東京大学での大学院生活においては、多様な機会に恵まれ、台湾大学やスタンフォード大学、九州大学を訪問しながら、超分子化学や電気化学、構造化学といった周辺領域にも触れることができました。こうした経験は、研究の幅を広げるのみならず、時間の流れに新たな層を与えるものでもあったように思われます。
そして現在、駒場において新たな環境に身を置く中で、私の関心は再び原点へと向かいつつあります。すなわち、複雑な分子がどのように反応するのかという根源的な問いです。ただしそれは、静的な理解にとどまるのではなく、より動的で全体的な視点から捉え直されるべきものとして立ち現れています。系の非平衡挙動に着目し、システム化学の手法を通じてその理解を深めることが、今後の課題となります。
このように振り返ると、私の歩みは一つの直線としてではなく、いくつもの転換を経て折り重なる時間の連なりとして現れてきました。「時に沿って」とは、その流れにただ従うことではなく、変化の只中にあってなお問いを持ち続ける営みなのかもしれません。今後、皆様とともに新たな時間を紡いでいけることを、心より楽しみにしております。
(相関基礎科学/化学)
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