HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報674号(2026年7月 1日)

教養学部報

第674号 外部公開

<時に沿って> 万事に感謝の気持ちを込めて

キム・スンテ

image674-4-3.jpg 本年四月一日付で総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系に助教として着任いたしました金承太(キム・スンテ)と申します。専門は細胞生物学で、ヒトiPS細胞を使用し、細胞分化のメカニズムを解明する研究に取り組んでいます。なかでも、従来のような「物質」に基づく機構よりは、「力」や「基質の硬さ」といった細胞を取り巻く環境の「物理的特性」によって引き起こされる機構に着目している点に特徴があります。「メカノバイオロジー」と呼ばれるこの分野に出会ったのは二〇一九年、現在所属している道上研究室で大学院生活を始めたときのことでした。細胞が周囲の物理的刺激に応じて分化の方向を変え得るという現象に触れたとき、季節や状況に応じて衣服や生活様式を柔軟に変える私たち人間の在り方と、どこか通じるところがあるのではないかと感じました。

 さて、ここに至るまでの歩みを「時に沿って」振り返ると、折々に「運に恵まれた瞬間」が重なっていたように思います。もちろん、一度きりの人生である以上、「どのようなことであっても一生懸命頑張ろう」という姿勢を大切にし、運だけに頼ってきたわけではありませんが、それでもなお、思い通りにいかなくても不思議ではない分岐点が幾度もあったと実感しています。たとえば、韓国人として避けることのできない兵役を終えるため、大学卒業後に約四年間のブランクがありましたが、学部四年次にマウスES細胞を用いた卒業研究に取り組んだ経験があったからこそ、本大学院に進学することができたと思います。また、学部時代には東京農工大学に国費留学生として四年間在籍しましたが、全国から選抜される国費留学の百名の枠に入ることができたのも、振り返れば幸運だったと言わざるを得ません。その留学プログラムの存在を知ったのは、先に日本で私費留学をしていた従兄のおかげでした。さらに遡れば、小学四年生の頃、母が大学時代に使っていた、色褪せた日本語の教科書に出会っていなければ、「日本留学」という発想そのものが生まれていなかったかもしれません。

 現在に立ち返ると、助教としては未熟で至らぬ点も多くあると思いますが、研究者・教育者としての歩みを東京大学で本格的に始める機会を得られたことに、深い感謝の念を抱いております。これまで支えてくれた家族や先生方、先輩・後輩、友人をはじめ、関わってくださったすべての方々への恩返しを胸に、今後も研究に邁進し、着実に成果を積み重ねていきたいと考えています。

(生命環境科学/生物)

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