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研究科長・学部長挨拶(2021年4月~2023年3月)

キャンパスという新しい「場」

大学院総合文化研究科長・教養学部長
森山 工(もりやま たくみ)

img_2021.jpg インターネット上で、ようこそ東京大学駒場Ⅰキャンパスにお越しくださいました。
 「キャンパス」(campus)ということばは、ラテン語の"campus"からきています。「広場、平地」という意味です。古代ローマでは「議会」を指したり、「運動場」や「遊技場」を指したりもしたようです。いずれにしても、そこは人が行き交う場所であり、あるいは人が集いあう場所であったことでしょう。

 そのような意味での「キャンパス」の姿が影を薄くして1年が経ちました。いうまでもなく、新型コロナウイルス感染症の拡大の影響です。もし、このCovid-19がなければ、わたしも歴代の研究科長・学部長と同じく、次のようにいうことができたでしょう。

 駒場Ⅰキャンパスは、学士課程のうち前期課程(学部1・2年)の学生のすべて、すなわちおよそ6,500人を迎え入れる本学随一のキャンパスである、と。次いで学士課程の後期課程(学部3・4年生)のうち、教養学部に所属する学生およそ400人とともに、大学院総合文化研究科の大学院生・研究生およそ1,500名を、また、大学院数理科学研究科の大学院生・研究生およそ200名を擁するキャンパスである、と。さらに、これらの学生たちの教育にあたる教員(教授・准教授・講師・助教)がおよそ400名おり、キャンパスでの教育研究活動を支える職員がおよそ100名にのぼる一大キャンパスである、と。

 残念なことに現在、これら総勢およそ9,000人からなる人々が行き交い、集いあう場所としての「キャンパス」は、物理的空間としては後退しています。けれども、それを物理的な「場所」としてではなく、ヴァーチャルなオンライン上も含めた「場」として捉えるならば、それを活性化させようとする試みは、過去1年の経験を経て、本学に定着しつつあります。むしろ、オンラインによる学修体験や研究体験が空間の制約や時間の制約からの部分的な解放をもたらすことにより、これまでとは違った意味で教育研究の活性化がもたらされている側面もあります。

 しかしながらその一方で、空間の制約や時間の制約がある「場所」であるからこそ得られる学修体験や研究体験があるということも、振り返って明らかとなってきました。これまで、ごく当たり前のこととして自明視していた経験に、新しい光が当てられているのです。「キャンパス」という「場所」での行き交いや集いあいという当たり前であったことに新しい意義が見いだされる一方で、オンライン上という「場」での出会いやコミュニケーションに今まで想定もしていなかった可能性が見いだされています。これらの両側面が合わさることによって、ポストコロナ期の駒場Ⅰキャンパスは、教育組織としても研究組織としても、コロナ期前の本学のそれとは違った姿をとるようになるでしょう。キャンパスという「場所」にふたたび人が行き交い、集いあうようになったとしても、それはコロナ期より前のキャンパスとは違ったキャンパスになることでしょう。

 わたしが思い描くのは、上述のように9,000人にのぼる学生や教職員というきわめて多様な構成員を含みもった集団が、個々人の多様性を犠牲にすることなく、その多様性をむしろ活力・推進力としながら、包摂性をもったキャンパスを実現することです。多様な構成員が相互に分断されたものとしてではなく、部分的につながりあいながら、キャンパスというある全体性を体現する仕組みを実現することです。わたしは、物理的でリアルな「場所」とヴァーチャルな「場」とを適切に組みあわせることで、このような包摂的な「キャンパス」を実現することが可能であるのではないかと考えています。ポストコロナ期を見据えながら、このような「キャンパス」への取り組みを着実に進めてゆきたいと考えています。

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