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最終更新日:2022.09.07

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トピックス 2022.08.25

【研究成果】水溶液が分離するか否かを、細胞サイズの器が制御することを発見 ――人工細胞を用いた医薬品開発や細胞内相分離の原理解明へ貢献――

東京大学大学院総合文化研究科
広島大学大学院統合生命科学研究科
科学技術振興機構(JST)

発表者

柳澤 実穂(東京大学大学院総合文化研究科 准教授)
渡邊 千穂(広島大学大学院統合生命科学研究科 助教)


発表のポイント

  • 異種の分子が溶けた水溶液は、試験管中ではよく混ざっていても、小さな人工細胞中では分離し、また細胞サイズが小さいほど分離が進むことを発見しました。
  • 小さな人工細胞でのみ生じる分離は、細胞膜が分子を選り好みする傾向が強まり、より親和性の高い特定の分子を膜に引き寄せることで生じることを明らかにしました。
  • 細胞という小さな空間でみられる相分離の原理解明へ寄与するとともに、人工細胞を利用した医薬品や化粧品の材料開発への貢献が期待されます。

発表概要

 複数の分子が溶けた水溶液は、分子濃度が十分高くなると水と油のように分離します(相分離)。分離する条件は、溶液を入れる器のサイズ(体積)が約1マイクロリットル(1000分の1ミリリットル)以上であれば、サイズに依らないとされてきました。

 東京大学大学院総合文化研究科の柳澤実穂准教授(東京大学 生物普遍性連携研究機構 准教授/大学院理学系研究科 准教授)、広島大学大学院統合生命科学研究科の渡邊千穂助教らは、2種類の高分子が溶けた水溶液を、大きさが変えられる人工細胞(注1)の器に入れることで、試験管中ではよく混ざっていても細胞のように小さな器では分離し、器が小さいほど分離が進むことを発見しました(図1, 2)。 さらにこの現象を、細胞膜が分子を選り好みする傾向が小さな器の中で強められ、より親和性の高い特定の分子を膜に引き寄せることから説明しました。

 本成果は、近年注目される細胞内相分離(注2)の制御に生体膜や空間サイズが寄与していることを示すとともに、膜やサイズが制御可能な人工細胞を用いる医薬品や化粧品の材料開発への貢献も期待されます。本研究成果は、2022年8月24日(米国太平洋夏時間)に米国科学誌「ACS Materials Letters」のオンライン版に掲載されました。



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図1:2種類の高分子(赤と緑)が溶けた水溶液が、試験管中とサイズの異なる人工細胞中で示す様子。試験管中では均一に混ざっていても、小さな人工細胞中では相分離し、各高分子に富む相をつくる。


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図2:小さな人工細胞中でのみ相分離した2成分高分子溶液を撮影した顕微鏡画像。左端から透過画像、高分子A、高分子Bの蛍光画像、それらの合成画像である。人工細胞の直径は、13 μm (i), 18 μm (ii, iii), 28 μm (iv)。小さな人工細胞(i-iii)では相分離が見られるが、大きな人工細胞(iv)では見られない。


発表内容

<研究の背景>
 水によく溶ける分子であっても、複数の分子を多量に水に溶かすと、水と油のように分離することがあります。この相分離と呼ばれる現象が生じる条件は、水溶液を入れる器の大きさが約1,000分の1ミリリットル以上では、器の大きさ(溶液の体積)には依らないとされてきました。しかし、医薬品や化粧品などに応用される複数の分子を含む小さな液滴中では、試験管中では分離しなかった場合でも、分離してしまうことがあり、水溶液を閉じ込める器の大きさが相分離へ及ぼす影響の解明が待たれていました。

<研究内容>
 本研究では、大きさが自由に変えられる人工細胞を器として用いることで、相分離が器サイズに依らないとされる下限値の約1マイクロリットルから、約1フェムトリットル(1兆分の1ミリリットル)まで様々なサイズの器を準備しました。そこに、相分離の条件が古くからよく知られている2種類の高分子が溶けた水溶液を閉じ込めることで、器のサイズが相分離へ及ぼす影響を調べました。その結果、試験管中(1辺の大きさが1ミリメートル以上)ではよく混ざっていても、約20~50分の1ミリメートル以下の小さな人工細胞中では相分離すること、人工細胞が小さくなるほど相分離が進むことを発見しました(図1, 2)。この現象を、人工細胞の膜が分子を選り好みして片方の分子を膜に引き寄せること、その傾向は器が小さくなるほど強められることを実験と理論から明らかにしました。本結果は、細胞サイズ程度の小さな器が、中に入っている水溶液が相分離するか否か、どのように相分離するかといった、相分離の条件に大きく関与することを初めて明らかにしました。

<社会的意義・今後の予定>
 近年、病気や生命機能に関わる細胞内相分離が注目されています。本研究が見出した相分離が引き起こされる器のサイズは、ちょうど細胞サイズに対応します。そのため、従来考慮されてこなかった空間サイズや生体膜が、細胞内相分離の制御に関わる可能性を示しており、細胞内相分離の原理解明へ寄与します。また、新型コロナウイルスワクチンなど、人工細胞を利用した医薬品や化粧品の材料開発においても、細胞サイズや膜を介した材料操作や機能制御という新規手法の開発が期待されます。

<謝辞>
 本研究は、科研費(JP18H01187, JP21H05871, JP21K18596, JP22H01188 [柳澤]、JP20K14425 [渡邊])、科学技術振興機構 創発的研究支援事業(JPMJFR213Y [柳澤])、戦略的創造研究推進事業 ACT‐X(JPMJAX191L [渡邊])の支援により実施されました。


発表雑誌

雑誌名:「ACS Materials Letters」(オンライン版:8月24日)
論文タイトル:Cell-Sized Confinement Initiates Phase Separation of Polymer Blends and Promotes Fractionation upon Competitive Membrane Wetting
著者:Chiho Watanabe, Tomohiro Furuki, Yuki Kanakubo, Fumiya Kanie, Keisuke Koyanagi, Jun Takeshita, Miho Yanagisawa*
DOI番号:https://doi.org/10.1021/acsmaterialslett.2c00404

研究チーム:
柳澤 実穂(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻/附属先進科学研究機構 准教授)
渡邊 千穂(広島大学大学院統合生命科学研究科 生命環境総合科学プログラム 助教)
古木 智大(東京大学教養学部統合自然科学科 統合生命科学コース 4年(研究当時))
金久 保有希(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程)
蟹江 史也(東京大学大学院総合文化研究科 広域科学専攻 修士課程(研究当時))
小柳 佳介(東京農工大学大学院工学府 物理システム工学専攻 修士課程(研究当時))
竹下 潤(東京大学教養学部前期課程 理科二類 2年(研究当時))



―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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