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最終更新日:2022.11.25

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トピックス 2022.09.29

【研究成果】コロナ禍における東京都郊外部庭園観光の動向 ――管理運営者のオーバーツーリズムとアンダーツーリズムに対する意識――

東京大学大学院総合文化研究科

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発表者

下山田 翔(東京大学 大学院総合文化研究科 附属国際交流センター 特任助教)


発表のポイント

  • コロナ禍では全国的に観光業界が衰退し、「アンダーツーリズム」と呼ばれる状態に陥っていたものの、東京都郊外部の庭園の一部はプレコロナ期に比べて来園者数が増加した
  • 一部の郊外部庭園に対する人気が上昇していることが示唆されたものの、庭園管理運営者は観光客の増加と集中によって引き起こされるさまざまな問題、すなわち「オーバーツーリズム」に対する危機意識が希薄であることが明らかになった
  • プレコロナ期に表面化していた「オーバーツーリズム」を未然に防ぐための方策を提案し、持続可能なかたちで観光を再興させる契機となることが期待される

発表概要

 東京大学 大学院総合文化研究科の下山田 翔 特任助教は、コロナ禍における東京都郊外部庭園観光の実態を調査した。

 コロナ禍では全国的に観光業界が衰退し、「アンダーツーリズム(注1)」と呼ばれる状態に陥っていたものの、東京都郊外部の庭園の一部はプレコロナ期に比べて来園者数が増加したことが明らかになった。しかし、郊外部の庭園管理運営者は「オーバーツーリズム(注2)」と呼ばれる、観光客の増加と集中によって引き起こされるさまざまな問題を差し迫って起こりうる危機だとは認識していないことが明らかになった。

 本研究は、近年世界的に問題意識の高まっているオーバーツーリズムとアンダーツーリズムに対する認識を合わせて調査した、数少ない実証研究である。

 本研究の成果は、プレコロナ期の観光で浮き彫りとなった問題点を踏まえて、ポストコロナ期においていかにして持続可能なかたちで観光を復興させていくかを検討する契機となることが期待される。

 本研究の成果は2022年9月29日(中央ヨーロッパ夏時間)にEuropean Institute for Advanced Studies in Managementの学会大会「International Conference on Tourism Management and Related Issues」にて報告されました。

発表内容

<背景>
 新型コロナウィルスによる感染症「COVID-19」が世界的に流行する以前、世界中の観光地ではオーバーツーリズムが表面化していた。わが国では京都や東京都心部に観光客が集中し、公共交通機関の混雑等が深刻化していた一方で、その周辺地域はインバウンドブームの恩恵をほとんど受けておらず、アンダーツーリズムが常態化していた。COVID-19は状況を急変させ、人気観光地もそうでない地域も、アンダーツーリズムに陥った。

<先行研究における問題点>
 オーバーツーリズムは近年注目を集める研究テーマであるものの、アンダーツーリズムに関する研究はいまだに少ない。観光地の人気は相対的に規定されることを考慮すれば、オーバーツーリズムとアンダーツーリズムは一緒に検討されるべきである。また、先行研究においてオーバーツーリズムの程度の測定が試みられる際は、人口に対する観光客数の比率や宿泊施設数などの、量的指標ばかりが採用されており、観光ステークホルダーの認識についての研究は相対的に見て少ない。さらに、事例として都市のみに注目が集まる傾向があり、その周辺地域である郊外部が研究されることは稀であった。

<研究内容>
 本研究は、東京都郊外部(市部)の庭園観光プロジェクトの協議会メンバー(庭園管理運営者)が、どのようにオーバーツーリズムとアンダーツーリズムを認識しているかを明らかにすることを目的とした。庭園管理運営者に対してインタビュー調査を行い、質的データを主題分析と呼ばれる手法で分析した。来園者数などの量的データも収集し、Excelにインプットしたうえで、東京都郊外部庭園の利用状況の変化を分析した。質的データと量的データを併せて分析することで、オーバーツーリズムとアンダーツーリズムに対する認識を多角的に調査した。 来園者数をカウントしている郊外部の庭園α~δにおける、2019年度から2021年度までの来園者数と公開日数の変化を集計したところ、2020年度はすべての庭園において公開日数が減少したことが明らかとなった。これは、緊急事態宣言に伴う閉園措置によるものであり、日本全国的、国際的に観光セクターが衰退した傾向と一致する。しかし、庭園βは2020年度に合計来園者数と1日当たりの平均来園者数を伸ばしていることがわかる(表1)。

表1:郊外部の庭園α~δにおける来園者数と公開日数の変化

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 庭園βの来園者数増加について特に注目すべきは、秋季に大幅に人気を高めていることである。2020年と2021年の10‐12月期は2019年の同時期に比べると来園者数が急増している。程度の差はあるものの、庭園αとδもコロナ禍において秋季に来園者数を増やしていることが見てとれる(図1)。

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図1:庭園α~δにおける2019年度から2021年度までの月別訪問者数の推移

 新型コロナウィルス感染症の流行前に比べて一部の郊外部庭園の人気が上昇していることが示唆されたものの、これらの庭園の管理運営者は「これまでに来園者数が増えすぎて問題が起きたことがない」という理由で、オーバーツーリズムを差し迫って起こりうるリスクだとは認識していないことが、インタビュー調査より明らかになった。

<社会的意義>
 本研究の成果は、プレコロナ期の観光で浮き彫りとなった問題点を踏まえて、ポストコロナ期においていかにして持続可能なかたちで観光を復興させていくかを検討する契機となることが期待される。プレコロナ期に人気を博した観光地に、同じ量の観光客を誘致し、同じ額だけ消費してもらえれば、それで観光の復興といえるのか。これまでは注目を集めてこなかった郊外部に観光客を誘致することで、都市部のオーバーツーリズムを防止・緩和できるのではないか。そのためには両エリアの連携が必要不可欠であり、本研究は観光客分散を目的とした周遊型観光の必要性を提唱する。

<今後の予定>
 今後は調査対象を東京都心部の庭園にまで拡張し、管理運営者の認識と来園者数を調査することで、都心部と郊外部が連携していくために必要な土台の構築を目指す。

<謝辞>
 本研究は、科研費「若手研究(課題番号:JP22K18019)」、「基盤研究(B)(課題番号:JP21H01143)」、「学術変革領域研究(A)(課題番号:JP21H05421)」、「基盤研究(C)(課題番号:JP22K05016)」、「若手研究(課題番号:JP22K14644)」の支援により実施されました。

発表学会大会

学会大会名:「International Conference on Tourism Management and Related Issues」
論文タイトル:Perception of overtourism and undertourism in a garden tourism project in suburban Tokyo
著者:Sho Shimoyamada*

用語解説

注1:観光客が全く、もしくはほとんどいない状態。特に近年は、パンデミック等の不測の事態によって引き起こされる急激な観光の衰退を指すことが多い。
注2:多くの観光客が特定の観光地に集中することで引き起こされるさまざまな問題の総称。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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