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最終更新日:2024.03.26

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トピックス 2023.12.11

ステラファーマ、三菱ケミカルグループ、東京大学が共同研究契約締結〜ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用ポリビニルアルコール(PVA)製剤の実用化を加速〜

2023年12月11日

ステラファーマ株式会社
三菱ケミカルグループ株式会社
国立大学法人東京大学大学院総合文化研究科


 ステラファーマ株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:上原 幸樹、以下「ステラファーマ」)、三菱ケミカルグループの三菱ケミカル株式会社(本社:東京都千代田区、以下「三菱ケミカルグループ」)、国立大学法人東京大学(本部:東京都文京区、総長:藤井 輝夫、以下「東京大学」)は、ポリビニルアルコール*1とボロノフェニルアラニン*2から構成されるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用製剤の実用化に向けた組成・製剤化方法の研究(以下「本共同研究」)に関する共同研究契約を締結し、共同研究を開始いたします。


本共同研究の背景・経緯

 BNCTは、ホウ素(10B)に対して熱中性子を照射することにより核反応を起こし、細胞傷害性の高いアルファ粒子とリチウム反跳核を発生させて、それによりがんを治療する方法です。

 BNCTではいかに10Bをがんに選択的に集積させることができるかが重要となります。現在、臨床で主に使用されているホウ素化合物は、ボロノフェニルアラニン(BPA、一般名:ボロファラン(10B))という物質です。BPAは、LAT1というがん細胞上に多く発現しているアミノ酸トランスポーターを介して細胞に取り込まれる性質があるため、選択的にがんに集積することができる化合物です。

 このように使用されているBPAですが、がん細胞に選択的に集積することができるものの、がん細胞に長い時間滞留することができないケースもあり、BPAのがんにおける滞留性を長期化できれば、BNCTの治療効果を更に向上できると考えられています。これまでの研究*3により、ポリビニルアルコール(PVA)にBPAを結合させた物質が、がん細胞に選択的かつ積極的に取り込まれ、その滞留性を大きく向上できることを東京大学大学院総合文化研究科 野本貴大准教授(当時 東京工業大学 助教)らが発見しました。

 この研究は、2020年8月から2023年3月までの期間、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の医療分野研究成果展開事業「産学連携医療イノベーション創出プログラム」基本スキーム(ACT-M)に採択され、野本准教授がリーダーとなり、BPAの製剤化及び薬事承認を経て、世界で唯一BNCT承認薬を販売するステラファーマとともに実用化に向けた製剤組成の最適化研究を行ってきました。その成果として、現在、製造販売されているBNCT用製剤に対してPVAを付加した製剤構造(PVA-sorbitol-BPA)にすることにより、新規なBNCT製品として実用化できる可能性を見出しました。この新規製剤により10Bの腫瘍集積性・滞留性を向上させてBNCTの有効性を高め、BNCTの適用範囲を拡大できることが期待されています。

 一方、PVA-sorbitol-BPAには、医薬品としての保存安定性の面などおいて今後検討すべき課題が残っていました。今回、この課題を解決するため、日系初のEXCiPACT GMP*4を取得し、国内外の製薬会社での販売実績や固・非固形製剤の多様な用途を持つPVAメーカーの三菱ケミカルグループを新たに加えて、実用化に向けた組成・製剤化方法の最適化の研究を開始します。


本共同研究の目的

 本共同研究ではPVA、sorbitol、BPAから構成されるBNCT用製剤の非臨床試験実施を目的とした組成・製剤化方法の最適化を行います。

 三者それぞれの役割として、東京大学 野本准教授のグループはPVA-sorbitol-BPA製剤の効果検証を行い、ステラファーマは、BPAの提供とこれまでの開発経験を活かしPVA-sorbitol-BPA製剤の規格設定を担当します。PVAのノウハウを有する三菱ケミカルグループはPVAの製剤化ならびに物性評価を行います。

 PVA-sorbitol-BPAの最適組成の検討と、それを用いた規格化設定ならびに安全性・治療効果の評価による課題解決を推進し、本製剤の早期実用化を目指します。


今後の展開

 アカデミアと民間企業とが綿密に提携し、実用化に向けた産学連携による研究を実施してまいります。本共同研究によりPVA-sorbitol-BPAの製剤規格設定を完遂し、適切な時期に公的な研究開発支援制度を活用して臨床開発に向けた非臨床POC取得を目指します。



*1 ポリビニルアルコール:生体適合性に優れた無色無臭の水溶性高分子。三菱ケミカルグループでは、不純物を取り除いた高品質なポリビニルアルコール (製品名:ゴーセノール™ EG) を製造・販売しており、国内外で医薬品添加物として利用されている。

*2 ボロノフェニルアラニン:必須アミノ酸のフェニルアラニンと類似した構造を持ちながら、ホウ素原子を含有した化合物。がん細胞に選択的かつ効率的に取り込まれることが知られている。熱中性子を当てると化合物中のホウ素原子が核反応を起こしてがん細胞を殺傷する。

*3 液体のりの主成分であるポリビニルアルコールをBNCT用製剤に応用できることを2020年に野本准教授のグループが「スライムの化学を利用」という形で報告し注目を集めた、本共同研究の基礎となった研究。

*4 EXCiPACT GMPは、医薬品添加剤の製造・流通に関する国際認証プログラムで、製薬メーカーの厳しい要求を国際的に満たす証明になる。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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