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最終更新日:2024.02.15

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トピックス 2024.01.10

【研究成果】サブナノ厚の半導体のみを単離する手法――ランダムに基板上へ剥離された2D半導体を短時間で選別してデバイス作製へと繋ぐ方法――

2024年1月10日
東京大学

発表のポイント

  • 溶媒内で超音波処理を行うことで、わずか1分という短時間でサブナノスケール厚である2次元半導体の単層を基板上に単離させることに成功しました。
  • 単層と同時に基板上に転写されてしまう99%の不要なバルク結晶群を除去するメカニズムを解明しました。
  • 孤立単層の実現により、デバイス作製時のレイアウトの自由度が向上するため、複雑なデバイス設計が可能となります。

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本研究で提案した超音波手法のイメージ


発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の桐谷乃輔准教授(研究開始当時:大阪公立大学)と中本竜弥特別研究学生(研究当時)は、溶媒内超音波処理によるサブナノ厚の2次元半導体単層を選択的に単離する手法を見出しました。

 2次元(2D)半導体は、わずか3原子で形成された単層(約0.7 nm厚)であっても半導体としての挙動を示し、省電力・高速動作を可能にする次世代デバイスの有力な材料候補として、年間1,500報を超える研究報告がなされています。この研究分野が極めて活発である理由の一つに、剥離法と呼ばれる結晶調製方法が挙げられます。接着テープに貼り付けた2D半導体結晶に対して剥離を繰り返して薄くした後、基板上へと転写する方法です。とても簡単な方法で、かつ良質な結晶性の極薄膜を得ることができます。半導体結晶作製のプロでなくとも、最先端の半導体材料を扱うことが可能です。しかしながら、単層と同時に、99%を占める多量の厚いバルク結晶も基板上に付随して得られます。そして、実際にデバイスを設計する際には、多量に点在するバルク結晶を避けながら単層結晶を利用する必要があり、不要なバルク結晶の存在はデバイス設計の自由度を大きく低下させていました。そのため、バルク結晶を選択的に除去しつつ、単層だけを基板上へと残す単離手法が望まれていました。

 本研究では、わずか1分という短時間の溶媒内処理により、基板上に転写された単層を選択的に孤立させることに成功しました。この手法を用いることで、従来では困難であった多数の電極を有した単層デバイスの作製が可能となるなど、2D半導体関連研究をさらに活性化する一助となると期待されます。


発表内容

〈研究の背景〉

 散らかった机の上で、精密な作業を行うことは困難です(図1)。空間的な自由度が少ないことに起因しています。究極の薄さを有する2D半導体は、その薄い2Dの骨格により、魅力的な電子特性を秘めた材料で、年間1500報を超える研究報告があります。多くの研究例では、剥離法により単層の結晶を単離していましたが、大量の不要なバルク結晶で単層の周囲は覆われ、そのためにデバイスを構築する基板の上は、いわゆる散らかった状態が常でした(図2左上)。バルク結晶だけを選択的に除くことができれば、単層結晶の周囲に利用できるスペースが生まれるため、これまで以上に自由度の高い研究ができると考えられます。


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図1:散らかった机(Before)では、作業が困難。


〈研究の内容〉

 従来、剥離法で転写されたバルク結晶は基板と強く相互作用しているために、選択的に取り除くことは難しいと考えられてきました。そのため、単層を用いた研究では、不要なバルク結晶により、生産性や拡張性に大きな制限が課されている状況が続いていました。本研究では、溶媒内で超音波処理を用いることで、わずか1分という短時間で、単層の結晶を単離する手法を提案しました。この手法を用いると、MoS2をはじめとした種々の遷移金属カルコゲナイド(注1)の結晶に対して、基板上に単離することが可能であることを示しました。なお、なぜバルク結晶が優先的に基板から除かれるのか、という疑問に対して、単層とバルク結晶における面内断裂強度の違いにより説明できることを提案しました。

 また、単離した単層を用いて、全方向から多数の電極を有するデバイスの作製を行いました(図2左下と右下)。この実験結果は、剥離法によって調製された単層であっても複雑な電極デザインの作成が可能となることを示しています。


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図2:孤立化単層を用いた多数電極を有するデバイス


〈今後の展望〉

 本研究では、2D半導体単層を選択的に単離させることに成功しました。本手法を用いることで、従来では困難であった多数電極を有したデバイスを効率良く作製することを可能とし、高度なデバイスの試作や2D半導体物性の開拓に役立つと期待されます。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科
中本 竜弥 研究当時:特別研究学生(兼 大阪公立大学 大学院工学研究科 修士課程)
松山 圭吾 研究当時:特別研究学生(兼 大阪公立大学 大学院工学研究科 博士課程)
酒井 正弘 学術専門職員
桐谷 乃輔 准教授

大阪公立大学 大学院工学研究科
吉村 武 准教授
藤村 紀文 教授

Department of Materials Science and Engineering, National Tsing Hua University
Chieh-Ting Chen  博士研究員
Yu-lun Cheuch  教授

立命館大学 理工学部電気電子工学科
毛利 真一郎 准教授

論文情報

雑誌:ACS NANO
題名:Selective isolation of mono to quad layered 2D materials via sonication-assisted micromechanical exfoliation
著者:Tatsuya Nakamoto, Keigo Matsuyama, Masahiro Saka, Chieh-Ting Chen, Yu-lun Cheuch, Shinichiro Mouri, Takeshi Yoshimura, Norifumi Fujimura, Daisuke Kiriya*.
DOI:10.1021/acsnano.3c11099


研究助成

本研究は、創発的研究支援事業(課題番号:JPMJFR2125)、JSPS 科研費(課題番号:23H01798, 20H02574)の支援により実施されました。


用語説明

(注1)遷移金属カルコゲナイド:
遷移金属元素とカルコゲン元素により組み上がった層状の結晶性化合物群の総称。1枚の層(単層)は厚み1 nmに満たない2次元の結晶である。MoS2やWS2、WSe2などが知られており、単層においても半導体としての特性を示す。これらの半導体は2次元(2D)半導体とも呼ばれている。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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