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最終更新日:2024.10.17

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トピックス 2024.10.17

【研究成果】謎多き身近なイルカ「スナメリ」の社会の一端を解明──これまで単独で暮らすとされていたスナメリが、ドローンによる行動観察と鳴音の録音を合わせた研究で、単独性と群居性がまじりあった社会を持つ可能性を示した初めての成果──

2024年10月17日
三重大学
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部

発表のポイント

  • ドローンによるスナメリの行動観察から個体間距離を測定するとともに、船舶からスナメリの鳴音を録音し、彼らが他個体の鳴音を聞くことができる範囲(可聴範囲)を推定した。
  • その結果、スナメリの個体間距離は、多くの社会行動を行う近距離(平均6m)と鳴音の聞こえる範囲(約70m)の2つのピークを持つ分布パターンを示すことがわかった。
  • このことから、スナメリは単独性と群居性がまじりあった社会を持つ可能性が示された。
  • 本研究の結果は、絶滅危惧種であるスナメリの人工騒音への脆弱性を示唆している。

概要

 三重大学大学院生物資源学研究科博士後期課程に在籍していた寺田知功さん(現・東京大学大学院総合文化研究科特任研究員・筆頭著者)は、同研究科の指導教員の森阪匡通教授(責任著者)、吉岡基教授(現・三重大学理事)、博士後期課程の八木原風さん(現・同研究科助教)、技術補佐員の神田育子、および附帯施設水産実験所の技術専門員の小川清宏とともに、伊勢湾のスナメリをドローンによる観測と音響録音を用いて研究しました。日本の沿岸域に多く生息するスナメリは、これまで単独生活者であると考えられてきましたが、本研究により単独生活者としての一面(単独性)だけでなく、2~3頭で頻繁に社会行動を行う群れ生活者としての一面(群居性)も有していることがわかりました。この成果は、絶滅危惧種であるスナメリにとって、水中の音環境が重要であることを示しており、生息環境中の人工騒音が、これまでの想定以上にスナメリに影響を与えることを示唆するものです。

 この研究成果は2024年9月14日に、国際学術誌「Behavioural Processes」にオンライン掲載されました。


背景

 動物がどのような社会を持ち、他者とどのように関わり合って暮らしているのかを知ることは、その動物の生態理解のみならず、人間活動がその動物に与える影響を推定するためにも重要です。また、様々な動物の社会を比較することで、ヒトのような複雑な社会がどのように進化したのかを推察することにもつながります。動物の社会は、これまで体(例えば鯨類では主に背びれ)の傷や色などの自然標識を使って個体を識別し、長期間にわたって観察し続けることで調べられてきました。しかし、スナメリは背びれを持たず、個体識別が極めて困難で、我々の生活に近い沿岸域に生息しているにも関わらず、社会に関する研究はあまり進められてきませんでした。そこで本研究では、スナメリの行動、個体間距離、他個体の鳴音を聞くことができる範囲(可聴範囲)に注目し、スナメリの社会が単独性であるか、群居性であるのかを調べました。


研究内容

 伊勢湾に生息するスナメリを対象に、津市沿岸域および伊勢市・鳥羽市沿岸域にて調査を行いました。スナメリが単独性の社会であると仮定した場合、他個体との距離が近くならないように個体間距離が一定以上離れており、さらに他個体と社会行動をあまり行わないと考えられます。一方、群居性の社会を仮定した場合、他個体との関係を維持するために、互いに近くにいて頻繁に社会行動を行うと考えられます。どちらの仮定に当てはまるのかを調べるため、ドローンによる行動観察と個体間距離の測定を行い、さらに船舶からスナメリの鳴音を録音し、可聴範囲の推定を行いました。個体間距離の分布は、可聴範囲よりもはるかに近い距離(平均6m)と、可聴範囲(約70m)と同程度の距離にピークを持つ二峰性を示しました。また、近い距離にいる2~3頭の間では頻繁に社会行動が記録された一方、半数以上の個体は単独で発見されました。こうしたことから、スナメリは単独性と群居性の両方の特性を有する社会を持つ可能性が示されました。

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図 1三重大学近くの海にて、ドローンで撮影したスナメリ。2頭が社会行動を行っている。
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図 2 津市沿岸域で測定したスナメリの個体間距離の分布と可聴範囲の関係。濃いグレーは可聴範囲よりもはるかに近い個体間距離の分布、薄いグレーは可聴範囲と同程度の個体間距離の分布を示す。点線は可聴範囲の中央値(約70 m)を示す。

今後の展望

 イルカといえば大きな群れで生活しているイメージがあると思いますが、中にはスナメリのように単独あるいは2~3頭という小さな群れで生活している種もいます。このような種間で、社会を比較することにより、私たちヒトのような複雑な社会がどのように進化してきたのかを知ることができると期待しています。また、沿岸域での人間活動の増加の結果、現在は絶滅危惧種に指定されているスナメリにとって、本研究の結果は、水中の音環境が従来の想定以上に重要であることを示しており、彼らの生息環境中の人工騒音(船舶や工事などが出す音)が増えないようにするなどの対策が、本種の保全には重要であることを示唆しています。


謝辞

 本研究は藤原ナチュラルヒストリー振興財団学術研究助成および、JSPS科研費22H05651、22J11913、24H01436、24KJ0074の助成を受けたものです。


論文情報

雑誌名:Behavioural Processes
掲載日:2024年9月14日 (https://doi.org/10.1016/j.beproc.2024.105102
論文タイトル:Bimodal distribution of inter-individual distance in free-ranging narrow-ridged finless porpoises
著者:Terada T, Morisaka T, Yagi G, Kanda I, Ogawa K, Yoshioka M


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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