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2025.11.07
【研究成果】ホットジュピターの静かな誕生に迫る ──「静か」に生まれるホットジュピターと 「激しく」生まれるホットジュピターの違い──
2025年11月7日
東京大学
発表のポイント
- 恒星の近くを周る巨大惑星「ホットジュピター」が、どのように現在の位置まで移動したのかを判別する新しい手法を提案しました。
- これによりこれまで判別が難しいとされていた、「原始惑星系円盤をゆるやかに移動」することで形成されたホットジュピターを効率的に見分けることが可能になりました。
- この手法を用いて特定されたホットジュピターは、惑星の軌道進化の条件を明らかにする上で重要な手がかりとなります。
(一部生成AIを利用して作成、クレジット:東京大学)
概要
東京大学大学院総合文化研究科の河合優悟大学院生と福井暁彦講師らの研究グループは、恒星の近くを周る巨大惑星「ホットジュピター」の形成過程を識別する新たな観測的手法を提案しました。ホットジュピターは、もともと恒星から遠く離れた軌道で形成され、何らかのしくみにより恒星の近くまで移動したと考えられています。移動のしくみには、他の天体の重力で軌道が乱されて内側に落ち込む「高離心率移動」(注1)と、原始惑星系円盤(注2)内をゆるやかに移動する「円盤移動」(注3)の2つがありますが、後者を観測的に見分ける手法はこれまで確立されていませんでした。本研究の手法を用いた結果、500個以上のホットジュピターのうち少なくとも約30個が、円盤移動由来と考えられる特徴を示すことが分かりました。この成果は、今後の惑星大気観測と組み合わせることで、惑星の軌道進化の条件を明らかにする重要な手がかりとなります。
発表内容
1995年に初めて発見された系外惑星(注4)は、わずか4日で恒星を一周する巨大な惑星でした。この惑星は木星の半分ほどの質量をもち、恒星近傍の高温環境に存在することから「ホットジュピター」と呼ばれるようになりました。その後、似たような質量や公転周期をもつ惑星が相次いで発見され、現在その総数は約540個に達しています。ホットジュピターはもともと太陽系の木星のように恒星から離れた場所で生まれ、その後、内側の軌道へ移動したと考えられています。その移動のしくみには、(1)他の天体の重力で軌道が乱されて内側に落ち込む「高離心率移動」と、(2)原始惑星系円盤の中をゆるやかに移動する「円盤移動」の2種類があると考えられています。
しかし、ホットジュピターがどのしくみを経て現在の位置まで移動してきたのかを、観測から直接判別するのは容易ではありません。「高離心率移動」で形成された場合には、軌道が乱された痕跡として恒星の自転軸と惑星の公転軸の傾き(注5)が手がかりになります。ところが、この傾きは時間の経過とともに再度揃ってしまう可能性があり、傾きが小さいことが必ずしも「円盤移動」を意味するとは限りません。そのため、「円盤移動」で形成された惑星を識別するための観測的な手法がほとんどないことが、長年の課題となっていました。
そこで、東京大学大学院総合文化研究科の河合優悟大学院生と福井暁彦講師らの研究グループは、「高離心率移動」にかかる時間に着目し、それを逆手に取ることで「円盤移動」で形成された惑星を識別する新たな観測的手法を提案しました。
「高離心率移動」では、惑星が軌道を乱され、一時的に強い楕円軌道となった後、恒星の近くを通過する際に受ける潮汐力(注6)によって軌道が縮み、円形化します。この軌道の円形化にかかる時間は、惑星の質量や公転周期、潮汐効果の強さなどによって決まります。そして、もしホットジュピターが「高離心率移動」で形成されたものであれば、この軌道の円形化にかかる時間は惑星系の年齢より必ず短くなければなりません。
本研究では、この関係を逆に利用して、軌道の円形化にかかる時間と惑星系の年齢を比較することで円盤移動によって形成されたホットジュピターを識別する新しい手法を提案しました。そしてこの手法を現在発見されている500個以上のホットジュピターに適用した結果、高離心率移動では説明できない、軌道の円形化にかかる時間が惑星系の年齢を上回る惑星が30個程度存在することが明らかになりました。
さらに、これらの惑星は他にも「円盤移動」による形成を示唆する特徴を持っていることが分かりました。例えば、この集団には軌道が傾いた惑星は存在していません。これは、惑星が円盤内を軌道が乱されることなくゆるやかに移動してきた場合の予測と整合的です。さらに、これらのホットジュピターのいくつかには、近くに別の惑星が存在していました。これは他の惑星を弾き飛ばしてしまう「高離心率移動」では見られない特徴です。
惑星系の成り立ちを理解するうえで、形成環境の記憶を保った惑星を判別することはとても重要です。今後これらの惑星の大気組成の観測から、円盤内での形成場所についての情報を得る事で、ホットジュピター誕生の全体像がさらに明らかになることが期待されます。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院総合文化研究科 広域科学専攻
河合 優悟 大学院生(博士課程)
福井 暁彦 講師 兼:同研究科 附属先進科学研究機構 講師
渡辺 紀治 特任研究員
成田 憲保 教授
兼:同研究科 附属先進科学研究機構 教授/自然科学研究機構 アストロバイオロジーセンター 客員教授
教養学部
深沢 匠 学部学生
論文情報
雑誌名:Astronomical Journal
題名:Identifying close-in Jupiters that arrived via disk migration: Evidence of primordial alignment, preference of nearby companions and hint of runaway migration
著者名:Yugo Kawai, Akihiko Fukui, Noriharu Watanabe, Sho Fukazawa, Norio Narita
DOI:10.3847/1538-3881/ae0a11
研究助成
本研究は、「JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2108)」、「科研費特別研究員奨励費(課題番号:25KJ1036)」、「科研費基盤研究(S)(課題番号:24H00017)」、「科研費基盤研究(B)(課題番号:24K00689)」、「二国間交流事業(課題番号:JPJSBP120249910)」、「科研費特別研究員奨励費(課題番号:25KJ0091)」の支援により実施されました。
用語説明
(注1)高離心率移動、離心率:
離心率は、惑星の軌道がどの程度円からずれているかを表す値 。0で完全な円軌道、1に近いほど細長い楕円軌道になる。高離心率移動は、ホットジュピターの軌道進化メカニズムの一つ。軌道が他の天体の重力によって高離心率へ進化したのち、円形化するためこのように呼ばれる。
(注2)原始惑星系円盤: 若い恒星の周囲に存在する、ガスと塵(ちり)からなる円盤。恒星が誕生した後もその周囲に残った物質が円盤状に広がったもので、惑星はこの円盤の中で物質を集めながら形成されると考えられている。
(注3)円盤移動:
惑星が形成されている最中、あるいは形成直後から、原始惑星系円盤が消失するまでの間に、円盤内のガスとの相互作用(ガス抵抗や重力など)によって惑星の軌道が変化し、内側または外側へ移動する過程を指す。特に内側への移動は、高離心率移動と並び、ホットジュピターの軌道形成メカニズムの主要な候補の一つと考えられている。
(注4)系外惑星:
太陽系の外に存在する、他の恒星を公転している惑星のこと。1995年に最初の発見が報告されて以来、現在では5,000以上の系外惑星が確認されている。
(注5)恒星の自転軸と惑星の公転軸の傾き:
恒星が自転する軸の向きと、惑星がその恒星の周囲を回る軌道面の傾き(軌道傾斜)の間にある角度。この角度が大きい場合、惑星の軌道が恒星の赤道面に対して傾いている。太陽系の惑星の太陽に対する軌道の傾きは10度以内に収まっている。
(注6)潮汐力:
中心にある天体を公転する天体が受ける重力が、天体上の各点によってわずかに異なることで生じる力。たとえば恒星と惑星の間では、惑星内部の恒星に近い側と遠い側で恒星から受ける重力が異なるため、惑星が引き延ばされる。この潮汐力によって、惑星の軌道だけでなく、自転が変化したり、内部が加熱されることがある。

