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最終更新日:2025.11.18

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トピックス 2025.11.18

【研究成果】「連続成功」への意識づけによって 心理的覚醒を大きく誘発する新手法を開発

2025年11月18日
東京大学

発表のポイント

  • 「連続成功を目標とする」というシンプルな仕掛けで、心理的プレッシャーに対応すると考えられる生理的覚醒指標である心拍数を段階的に大きな値まで上昇させる実験パラダイムを開発しました。
  • 連続成功回数が大きくなるにつれて心拍数は上昇し、従来の実験室実験におけるプレッシャー誘発パラダイムで報告される上昇幅(0-5bpm程度)を大きく上回る、約20bpmの心拍数増加を確認しました。
  • 目標を「連続成功」から「合計成功」に切り替えると、連続成功回数が大きくなっても心拍数の上昇は見られませんでした。これは、「連続成功」そのものではなく、連続成功への意識づけがプレッシャー誘発の鍵であることを示唆しています。
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連続成功が目標であるとき、成功が連続すると心拍数が増加します。

概要

 東京大学大学院総合文化研究科の工藤和俊教授、宮田紘平特任講師、博士課程の山田燎さんらの研究グループは「連続成功」を目標とさせる新しい実験パラダイムを考案し、心理的プレッシャーを反映すると考えられる生理的覚醒指標である心拍数を実験室環境において大幅に上昇させることに成功しました。

 本手法は、多数の実験協力者や金銭報酬といった特殊な環境を用意することなく、非常に大きな生理的覚醒を引き出すことができます。今後、プレッシャーが運動制御・学習に及ぼす影響とそのメカニズムの解明につながることが期待されます。


発表内容

 心理的プレッシャー環境下では、いつも通りのパフォーマンスが発揮できないことがありますが、その具体的なメカニズムは未だに明らかになっていません。その原因の一つとして、実験室環境において生成されたプレッシャー環境と我々が現実世界で経験するプレッシャー環境が異なることが指摘されています。特に、現実のプレッシャー環境に比べて、従来研究での実験室環境におけるプレッシャーは、生理的覚醒をあまり引き起こすことができず、「あり/なし」の2条件比較に留まっていました。

 そこで本研究では、心理的要因によって大きな生理的覚醒を引き起こす実験パラダイムを考案しました。具体的には、参加者は指先である大きさの力を発揮することが要求される課題を行いましたが、参加者には「10回連続成功が目標である」と伝えられました。連続成功回数が大きいとき(例:9回連続成功時)に大きなプレッシャーが生じると予想しました。結果として、連続成功回数が増大するほど(連続成功回数が10回に近づくほど)、生理的覚醒の指標である心拍数が指数関数的に増大することが明らかになりました。一方で、連続成功回数が増大するほど、力発揮の正確さは単調に向上しました。

 さらに、興味深いことに、参加者に「100回合計成功が目標である」と伝えたところ、実際には連続成功回数が増大しても、心拍数の増大や力発揮の正確さの向上は見られませんでした。つまり、単に「連続で課題を成功していること」ではなく、「連続成功という目標下において連続で課題を成功していること」が生理的覚醒や運動制御の正確性の変化を促していることが示唆されました。

 連続成功という目標が与えられたとき、約20bpmの心拍数増加を確認しました。これは、従来の実験室実験におけるプレッシャー誘発パラダイムで報告される上昇幅(0-5bpm程度)を大きく上回るものです。「連続成功」を目標と設定する本研究の手法はどのような課題であっても応用することが可能であるため、汎用性の高い介入手法であるといえます。

 今後、プレッシャーが運動制御・学習のみならず知覚・認知も含めて包括的にどのような影響を及ぼすのかに関する研究が加速していくことが期待されます。また、スポーツや音楽などの現場においても、プレッシャー環境でのパフォーマンス発揮を訓練するツールとなる可能性があります。

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図1:実験の概要図
参加者は指先で最大随意収縮の10%に相当する力を発揮する課題を繰り返し行いました。実験1では「10回連続成功」が目標とされました。このとき、連続成功数が増大するにつれて心拍数(生理的覚醒)は指数関数的に増大し、力発揮の正確さは単調に向上しました。一方、実験2において「100回合計成功」を目標としたところ、連続成功数が増大しても心拍数や力発揮の正確さの変化は見られませんでした。すなわち、「連続成功」という目標が課題に付与されたときにのみ、大きな生理的覚醒や運動制御の正確性の変化が生じることが示されました。

 なお、本研究は東京大学大学院総合文化研究科「人を対象とした実験研究に関する倫理審査委員会」の承認のもと実施されました。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科
工藤 和俊 教授
宮田 紘平 特任講師
山田 燎 博士課程/日本学術振興会特別研究員


論文情報

雑誌名:iScience
題名:An experimental paradigm to manipulate physiological arousal using consecutive successes
著者名:Kagari Yamada, Kohei Miyata, Kazutoshi Kudo
DOI:10.1016/j.isci.2025.113961


研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費基盤研究(B)(課題番号:24K02825)および学術変革領域研究(A)(課題番号: 25H01237)、身体性情報ネットワーク(クボタ)寄付研究部門研究費の支援により実施されました。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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