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最終更新日:2025.12.09

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トピックス 2025.12.09

【研究成果】時分割多重化によるイオントラップ電極制御を実証 ──イオントラップ量子コンピュータの配線ボトルネックを解決へ──

2025年12月9日
キュエル株式会社
国立大学法人大阪大学
国立大学法人東京大学

概要

 キュエル株式会社の大平龍太郎リサーチサイエンティスト、大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)の三好健文特任教授、森榮真一特任研究員、大阪大学大学院基礎工学研究科の田中歌子講師(大阪大学QIQB兼任教員)、宮本真成大学院生、東京大学の野口篤史准教授、中村一平特任助教の研究グループは、イオントラップ(注1)量子コンピュータの大規模化における主要課題である電極配線および制御回路の拡張性(スケーラビリティ)の問題を解決する新たな手法として、時分割多重化(TDM: Time-Division Multiplexing)(注2)に基づく電圧制御方式を開発し、その実験的実証に世界で初めて成功しました。本成果を報告した論文は、その独創性と技術的意義が評価され、Applied Physics Letters誌のFeatured Articleに選出されました。さらに、本論文は、American Institute of Physicsが運営する科学広報メディア「Scilight(Science Highlight)」にも取り上げられ、国際的な注目を集めています。


発表内容

 イオントラップ量子コンピュータは、高い量子ゲート忠実度と長いコヒーレンス時間を兼ね備え、量子コンピュータの実現において有力な物理系の候補の一つとされています。しかし、多数のイオンを制御するには、多数の電極を独立に駆動する必要があり、これに伴い デジタル・アナログ変換器(DAC: Digital-to-Analog Converter)(注3)を中心とした制御エレクトロニクス、配線、真空フィードスルーの数が急増します。現状の制御方式では、わずか数十個のイオンを扱う段階でも数百本の配線が必要となり、配線および制御回路のスケーラビリティ確保が大きな課題となっていました(図1左)。

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図1:(左) 従来のイオントラップ量子コンピュータ向け制御方式
(右) 今回提案した TDM を用いた制御方式

 この問題を解決するために、本研究グループは、TDM方式を用いた新しい電圧制御方式を開発しました(図1右)。この方式では、DACから出力されるTDM信号を高速スイッチとコンデンサで構成されたデマルチプレクサ(DEMUX)(注4)に入力し、各チャネルに対応する電極に適切な電圧を分配します。本研究では、図2に示すような2台のDACを用いた10チャネル制御システムを開発し、表面電極型トラップにおいて ⁴⁰Ca⁺ イオンの捕獲および輸送を実現しました。

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図2:開発した TDM 制御システム

 この成果は、大規模イオントラップ量子コンピュータの実現に向けて、電極制御回路のスケーラビリティを大幅に改善する基盤技術を提供するものです。今後は、デマルチプレクサの真空内統合や低温ステージでの動作検証を進め、さらなる高密度化および低消費電力化を目指します。これにより、将来的な大規模量子デバイス制御の実現が期待されます。


論文情報

論文タイトル:Trapping an Atomic Ion using Time-Division Multiplexed Digital-to-Analog Converters
著者:Ryutaro Ohira, Masanari Miyamoto, Shinichi Morisaka, Ippei Nakamura, Atsushi Noguchi, Utako Tanaka, Takefumi Miyoshi
掲載誌:Applied Physics Letters
掲載日:2025年12月9日(日本時間)
DOI:10.1063/5.0294871


謝辞

本研究は文部科学省 Q-LEAP(課題番号:JPMXS0120319794)、科学技術振興機構(課題番号:JPMJPF2014)、およびJST ムーンショット型研究開発事業(課題番号:JPMJMS226A, JPMJMS2063)の支援を受けて実施されました。


用語解説

注1 イオントラップ
電場を用いて原子イオンを真空中に捕獲する装置。

注2 時分割多重化
複数の信号を時間領域で分割して単一の経路で順番に信号の伝送および処理をする技術。

注3 デジタル・アナログ変換器
デジタル形式の信号データをアナログ信号として出力する電子部品。

注4 デマルチプレクサ
1つの入力信号を複数の出力チャネルに分配する回路。


―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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