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2026.01.09
【研究成果】食品スクリーニング装置が放射性セシウムを誤検出する原因を解明 ── 天然の放射性物質を放射性セシウムと誤認するわけ ──
2026年1月9日
東京大学
発表のポイント
- 食品スクリーニング装置で陶器を測定すると,天然に含まれる放射性物質が「放射性セシウム」と誤認される可能性があることを確認しました.
- 高精度測定装置を用いてガンマ線を解析すると,陶器に含まれる放射性物質はすべて天然に存在する放射性物質であり,放射性セシウムではないことを実証しました.
- 本研究ではスクリーニング検査によって放射性セシウムが検出された場合には,精密測定を併用して確認を取ることが重要であることを示しています.
概要
東京大学大学院総合文化研究科の小豆川勝見助教らによる研究グループは,食品用スクリーニング装置(注1)を用いて陶器(湯のみ,酒器など)のガンマ線を測定した場合に,実際には存在しない放射性セシウムが検出されたように表示される現象について,その原因を明らかにしました.
福島県内外で製造された16点の陶器について食品スクリーニング装置を用いてガンマ線を測定したところ,内15点から「放射性セシウムが検出された」と表示されました.しかし,高精度な分析装置(ゲルマニウム半導体検出器,注2)を用いて詳細に解析した結果,いずれの陶器からも放射性セシウムは検出されず,検出された放射性物質はすべて自然由来の214ビスマスや228アクチニウムなどであることが分かりました.
福島第一原発事故からの復興が進み,伝統工芸品や地域産品が再び注目されつつある中で,本研究はスクリーニング測定結果の正確な解釈および適切に活用するための具体例と指針を提供するものです.
発表内容
<研究の背景>
福島第一原子力発電所事故以降,食品中の放射性セシウムを迅速に測定する食品スクリーニング検査が福島県浜通りを中心に広く行われてきました.この検査は短時間で放射性セシウムの測定結果が得られることから,行政機関や道の駅などで一般の方も利用できる重要な仕組みとなっています.これらの装置は,検査対象が食品であることを前提に設計されていますが,近年では復興の進展に伴い陶磁器や民芸品など食品以外の生産物についても放射性セシウムの測定の需要が出てきました.しかし,食品スクリーニング装置で陶器を測定すると「放射性セシウムが含まれている」と表示される事例が一部で確認され,原材料に放射性セシウムが混入しているのかと影響を懸念する声が挙がりました.私たちの研究グループはこの表示が生じる原因を科学的に検証しました.
<研究の内容>
福島県浪江町で生産された陶器(大堀相馬焼)8点の他,ベラルーシ,ウクライナ,イスラエルで生産された陶器,合計16点について,2種類の食品スクリーニング装置(CsI(Tl)シンチレーションカウンターおよびNaI(Tl)シンチレーションカウンター)と,ゲルマニウム半導体検出器)を用いてガンマ線を測定し,得られた核種の定性および定量値を比較しました.
食品スクリーニング装置では16点中15点の陶器から放射性セシウムが検出され,その放射能は76.7 Bq/kgから260 Bq/kgと示されました.しかし,ゲルマニウム半導体検出器を用いて16点の陶器を測定すると,放射性セシウムはすべての陶器から検出されませんでした.
原因を詳しく調べるための代表例として,大堀相馬焼のぐい呑み(図1)を用いた解析を示します.図2は同一のぐい呑みから放出されるガンマ線をNaIシンチレーションカウンター(オレンジ)とゲルマニウム半導体検出器(青)で比較したものです.
オレンジ:NaIシンチレーションカウンター,青:ゲルマニウム半導体検出器
放射性セシウムの一つ137Csは,661.6 keVのガンマ線を放出します.ゲルマニウム半導体検出器はガンマ線のエネルギー分解能が極めて高く,個々の放射性核種を明確なピークとして識別できますが,661.6 keV近傍にピークは見当たりません.一方でNaIシンチレーションカウンターは相対的にエネルギー分解能が低いため,661.6 keV付近のガンマ線を幅広く同一のピークとして認識します.この領域よりも少し低いエネルギーには天然核種(注3)である214Bi(609.3 keV)や208Tl(583.2 keV)が存在しますが,NaIシンチレーションカウンターはこれらを区別できず,結果として137Csが存在するかのように認識してしまいます.
なお,このぐい呑みをさらに詳細に分析すると214Biが26.1 Bq/kg,208Tlが16.7 Bq/kg,212Biが25.6 Bq/kg含まれていました.これらの核種が137Csの定量に影響を与えていました.一方,228Ac(794.9 keV)は0.12 Bq/kgと低く, 134Cs(795.8 keV)の定量への影響は小さいことが分かりました.これらの含有量は釉薬や製造過程によって異なるため,すべての陶器が同じ結果になるというわけではありません.
食品スクリーニング装置は食品中の放射性セシウムを測定することを目的に設計されています.食品には放射性セシウムと誤認されるような214Bi,208Tl,212Bi,228Acといった天然核種が放射性セシウムの定量に影響を与えるほどは含まれていません.そのため食品スクリーニング装置で食品を測定する上では問題は生じませんが,天然核種が多く含まれている検体を測定した場合には,他の核種を誤検出してしまう可能性が生じます.そのような場合には,ゲルマニウム半導体検出器などの高精度なガンマ線分析装置による再確認が重要です.
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院総合文化研究科
小豆川 勝見 助教
大学院総合文化研究科附属教養教育高度化機構
堀 まゆみ 特任助教
大学院総合文化研究科共通技術室
滝澤 勉 技術専門職員
Thomas E. Johnson(トーマス・ジョンソン) 教授
論文情報
雑誌名:Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry
題名:Misidentification of Natural and Anthropogenic Radionuclides in Scintillation-Based Screening in Fukushima, Japan
著者名:Katsumi Shozugawa, Mayumi Hori, Tsutomu Takizawa, Thomas E. Johnson
DOI:10.1007/s10967-025-10694-y
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10967-025-10694-y
研究助成
本研究は,「測定で応援!オールインワン放射線測定による復興支援基金(東京大学基金)」および科研費基盤研究(B)「特異的に高濃度で放射性物質を含有する魚類の原因の探求(課題番号:22H03729 (2022-2023),23K24983(2024-))」により実施されました.
用語解説
(注1)食品スクリーニング装置
食品中の放射性セシウムを短時間で検出する装置.福島県を中心に広く活用されている.検出器にはCsI(Tl)やNaI(Tl)といった検出器が用いられることが多い.迅速性が高い反面,定量値には不確かさが大きい.
(注2)ゲルマニウム半導体検出器
ガンマ線の高いエネルギー分解能を持ち,ガンマ線放出核種を正確に識別・定量することが可能.
(注3)天然核種
土や鉱物などに自然に含まれる放射性核種.

