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2026.03.03
【研究成果】量子状態が未知であっても最適な仕事の取り出しが可能であることを証明
2026年3月3日
東京大学
発表のポイント
- どの量子状態が与えられても常に最適な熱力学的仕事を取り出せる単一の操作が存在することを証明した。
- 先行研究では、量子状態から最適な仕事を取り出すためにはその状態に関する完全な情報が必要であると考えられていたが、実際には最適な仕事の取り出しを達成するのには与えられた状態に関する情報は一切必要でないことを示唆している。
- 本研究は、与えられた量子状態や量子プロセスに依存せずにタスクを実行する「ユニバーサルな量子情報処理」を確立するための足掛かりとなることが期待される。
概要
東京大学大学院総合文化研究科の渡邉開人大学院生(修士課程)、髙木隆司准教授による研究グループは、物質の最小の構成要素である量子に対して成り立つ熱力学の枠組みで、与えられた量子状態の詳細に一切依存せず、最適な仕事の取り出し性能を達成する単一の熱力学的な操作が存在することを証明しました。
量子コンピューターなどさまざまな応用が期待される量子デバイスを実現する量子制御技術を発展させる上で、熱力学的な法則がどのようにミクロな量子系を支配し、可能な操作に原理的な制限を与えるかを深く理解することは必要不可欠です。本研究では、どんな量子状態に適用しても最適な仕事の取り出しを達成することができる「ユニバーサルな仕事の取り出し操作」を構成し、最適な仕事の取り出しには与えられた量子状態に関する情報が必要でないことを証明しました。本研究は、量子系がどのような熱力学的な法則に支配されているかについて革新的な洞察を与えるとともに、熱力学を超えたさまざまな量子情報処理タスクが一切の事前情報なしに実行できる可能性を示唆するものでもあります。
発表内容
〈研究の背景〉
近年、量子コンピューターや量子センシングといった次世代の量子デバイスの実現に向けてナノスケールの量子系を精密に制御する技術が盛んに研究、開発されています。一方、より高性能な量子制御を達成するためには、ナノスケールの量子系がどのような熱力学の法則に支配されているかを深く理解することが必要不可欠です。量子系の熱力学の枠組みにおいて、与えられた量子状態から取り出せる仕事の原理的な限界を特徴付けることは最も重要な問題の一つです。
量子状態から取り出しうる仕事量の原理限界については先行研究においても盛んに調べられていましたが、そのほとんどは実験者が与えられた量子状態についての完全な情報を持っているという仮定のもと解析を行っています。しかしながら、実際には量子状態は環境から未知のノイズを受けるため、初期状態の完全な情報が常に手に入るとは限りません。また、量子状態の完全な情報を手に入れるためには莫大な数の測定を行う必要があります。それにもかかわらず、このようなコストはほとんどの先行研究では考慮されていませんでした。
〈研究の内容〉
そこで本研究では、与えられた量子状態に関する情報が全く与えられていない状況下において、どれだけの仕事が取り出せるのかを解析しました。その結果、全く未知の量子状態に対してもコピー多数の状況においては必ず最適な仕事の取り出しが達成できる、「ユニバーサルな仕事の取り出し操作」が存在することを構成的に証明しました。本研究で構築されたユニバーサルな仕事の取り出し操作は、与えられた量子状態によらずに設計されているにもかかわらず、どの量子状態に適用しても最適な仕事の取り出しを達成することができます。この研究成果は、量子系の熱力学において最適な仕事の取り出しを達成するのに初期状態の情報は一切必要でなかったことを示唆し、情報理論において中心的な概念である「知っている」と「知らない」の違いが、熱力学極限における仕事の取り出しでは現れないことを示しています。
〈今後の展望〉
本研究結果は、量子系の操作に必要不可欠な量子系の熱力学の理解を進展させるものと考えられます。加えて本研究は、量子系の熱力学を超えたさまざまな量子情報処理を、与えられた量子状態や量子プロセスの事前知識なしに最適に行うことができる可能性を示唆しており、今後の研究の発展に寄与していくと期待されます。
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻 相関基礎科学系
渡邉 開人 大学院生(修士課程)
髙木 隆司 准教授
論文情報
雑誌名:Nature Communications
題名:Universal work extraction in quantum thermodynamics
著者名:Kaito Watanabe* and Ryuji Takagi*
DOI:10.1038/s41467-026-69143-3
研究助成
本研究は、科研費JP23K19028, JP24K16975, JP24H00943, JP25K00924, JST CREST JPMJCR23I3, 東京大学卓越研究員制度、先進基礎科学推進国際卓越大学院教育プログラム(WINGS-ABC)の支援により実施されました。

