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最終更新日:2026.04.09

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トピックス 2026.04.09

【研究成果】水素終端ゲルマニウム層状半導体(ゲルマナン)において記録的な正孔移動度を達成 ──2D/3D同一元素ヘテロ界面による新たな材料開発の指針──

2026年4月9日
東京大学

発表のポイント

  • 水素終端ゲルマニウム層状半導体(ゲルマナン:GeH)において、同系統の構造として最高水準の正孔移動度を観測。
  • 外部からの不純物原子の導入によらず、2D物質(GeH)と3D物質(Ge)を積層することで、高品質な2次元正孔ガスが自発的に形成。
  • 変調ドープ構造のような精密な不純物濃度制御を必要としない、2D層状半導体を用いた将来の高速電子デバイス設計に新たな道。
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ゲルマナン2D/3D界面の持つ高いホール移動度

概要

 東京大学大学院総合文化研究科の上野和紀准教授と、深津晋東京大学名誉教授らによる研究グループは、次世代の半導体材料として期待される2次元(2D)層状物質(注1)において、高速な電荷輸送を実現する新たな界面設計指針を提示しました。

 同研究グループは、半導体として広く使われる3Dバルク結晶であるゲルマニウム(Ge)基板上に、その原子層を水素終端した2D層状半導体「ゲルマナン(Germanane:GeH)」をエピタキシャル成長(注2)させ、同一元素を基盤とする「2D/3D同素体ヘテロ界面」を構築しました。この界面において、低温(15 K)で67,000 cm2/Vsという、ゲルマナン関連構造としては記録的な正孔移動度を達成しました。

 半導体材料の研究では、基板や界面の環境が輸送特性を大きく左右することが知られています。本研究では、従来の変調ドープ構造のような精密な不純物制御を必要とせず、同じ元素(ゲルマニウム)からなる2次元物質と3次元物質の界面を作ることで、イオン化不純物散乱(注3)が強く抑制されたクリーンな導電路(2次元正孔ガス)を形成できることを明らかにしました。本成果は、低温下で見いだされた高移動度界面の設計指針として、将来的な高速デバイス開発に重要な知見を与えるものです。


発表内容

 現代の電子デバイスの性能向上には、材料中を電荷がいかにスムーズに動けるか(移動度)が直結します。原子層数層の厚みでバルク単結晶と同じ物性を示す2D層状半導体は、微細化への適合性と優れた電気特性を両立する候補として注目されていますが、理想的な輸送特性を引き出すための界面制御が大きな課題となっていました。

 今回、東京大学大学院総合文化研究科の上野和紀准教授らの研究グループは、ゲルマニウムのハニカム格子を水素終端した層状半導体「ゲルマナン(GeH)」に注目しました。ゲルマナンは、水素終端されていない2次元シートである「ゲルマネン」とは異なり、1.6 eV程度の直接遷移型バンドギャップを持つ半導体であり、光・電子デバイスへの応用が期待されています。

 研究グループは、Ge基板上にエピタキシャル成長させたCaGe2薄膜から、トポタクティック反応(結晶構造の骨格を保ったままの化学変換)を用いてゲルマナン薄膜を作製しました。

本研究の主な成果:
  1. ゲルマナン系として記録的な移動度
     15Kの低温測定により、正孔移動度が67,000 cm2/Vs に達することを確認しました。これは、剥離により作成したゲルマナン単結晶剥片や従来の電解質ゲートを用いたゲルマナン薄膜上のトランジスタ素子と比較して、極めて高い数値です。

  2. 高品質な2次元正孔ガスの形成
     磁場中で電気抵抗が振動する「シュブニコフ=ド・ハース(SdH)振動」と思われる構造を低温の磁気抵抗で観測しました。この振動から算出されたキャリア密度がホール測定の結果と一致することなどから、2D/3D界面に閉じ込められた「2次元正孔ガス(2DHG)」の形成を強く支持する結果を得ました。

  3. 不純物原子に頼らないキャリア供給メカニズム
     今回の高移動度は、意図的な不純物原子の導入(化学的ドーピング)ではなく、ゲルマナンとゲルマニウムの仕事関数差に伴う界面電荷移動によって実現しました。温度依存性の解析からは、移動度を制限する大きな要因である「イオン化不純物散乱」が強く抑制されていることが示唆されました。また、従来の研究と異なり、計算によって得られた荷電子帯最上部の電子の有効質量は0.12me (meは電子の質量)と非常に小さく、この軽い有効質量も高い移動度に寄与していると考えられます。

 今回の発見は、2D層状半導体と従来の3D半導体技術を組み合わせた「2D/3D同素体ヘテロ界面」が、精密な不純物設計なしに高品質な量子輸送を実現するための有効なプラットフォームであることを示しています。今後は、この界面設計指針をベースに、ゲート電極による制御や室温特性の向上を図ることで、次世代の高速電子デバイスへの応用展開が期待されます。


発表者・研究者等情報

東京大学大学院総合文化研究科
上野 和紀 准教授
深津 晋 名誉教授
片山 裕美子 助教(研究当時、現:AGC株式会社)
大熊 光 助教
安武 裕輔 講師(研究当時、現:技術専門職員)
小林 大樹 修士課程大学院生(研究当時)


論文情報

雑誌名:Applied Physics Letters
題名:High mobility holes at germanane/Ge(111) epitaxial 2D/3D allotropic Heterointerface
著者名:Yumiko Katayama, Daiki Kobayashi, Hikaru Okuma, Yuhsuke Yasutake, Susumu Fukatsu, and Kazunori Ueno
DOI:10.1063/5.0321934


研究助成

本研究は、科研費(20H02635,21H01038, 22K04869, 22K14001, ,23H01865, 23K26558, 25K01617, 25K17340)、池谷科学技術振興財団助成金、豊田理研スカラー制度の試験により実施されました。


用語解説

(注1)2次元(2D)層状物質:
ゲルマナンや二硫化モリブデン、グラファイト(炭素)などの物質は原子同士が強く結びついた2次元(2D)のシートが積み重なった構造を持ちます。面内方向には強い共有結合(イオン結合)で結ばれ、層間方向にはファン・デル・ワールス力という非常に弱い力で結合しています。これらの物質は原子1層単位で厚さを制御できるだけでなく、層数に応じてバンド構造や電気的性質が大きく変わるという特徴を持ちます。そのため、トランジスタのようなデバイス応用において高い制御性が期待され、極限的な微細化においても電気的特性を維持できる可能性があることから次世代の半導体材料として注目されています。

(注2)エピタキシャル成長:
下地になる単結晶基板上において、結晶方位がそろった形で薄膜単結晶を成長させる手法。界面での欠陥が非常に少ないため、高移動度トランジスタなどの先端半導体デバイスの作成には欠かせない手法です。本研究では下地のゲルマニウムの(111)面に成長したゲルマナン(0001)面が面内で整合した原子配列を持つことに着目し、3D結晶と2D結晶のエピタキシャル成長を行いました。

(注3)イオン化不純物散乱:
結晶の中を電子が移動するとき、結晶の中の不純物原子などの要因によって電子の動きが妨げられます。このような電子の動きを妨げる(散乱する)要因が少ないほど、トランジスタなどの半導体デバイスの性能の指標である移動度が大きくなります。イオン化不純物散乱は低温の移動度を決める主要な散乱です。従来の半導体では変調ドーピングという手法を用いて不純物イオンが存在する領域と電子が移動する領域を空間的に分けることでこの散乱を小さくしましたが、本研究ではそのような複雑な構造を用いずに、イオン化不純物散乱の非常に小さな伝導を実現しました。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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