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最終更新日:2026.05.27

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トピックス 2026.05.27

【研究成果】葉緑体から核へどう伝わる? ──植物の光合成遺伝子発現におけるヘムの重要性をバクテリアの酵素を用いて実証──

2026年5月27日
東京大学
奈良女子大学

発表のポイント

  • ヘム分子を異なる部位で開裂するバクテリア由来の酵素を用いて、これまで切り分けて議論することが困難であったヘムとヘム代謝物の関連する光シグナルを個別に評価することを可能にしました。
  • 植物の葉緑体分化の初期過程で発現する核内に存在する光合成遺伝子発現制御に、ヘムが色素体由来シグナル分子として働くことを明らかにしました。
  • 色素体で合成されたヘム分子は細胞質を介してシグナル分子として伝わり、核内の光合成関連遺伝子発現を制御することを明らかにしました。
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葉緑体から核への情報伝達には
ヘムシグナルとフィトクロムシグナルが共役しながら関わっている

概要

 東京大学大学院総合文化研究科の竹野谷美穂子特任助教、三宅敬太助教、増田建教授および奈良女子大学の清水隆之准教授らによる研究グループは、ヘム(注1)分子を異なる部位で開裂するバクテリア由来の酵素を用いて、これまで切り分けて議論することが困難であったヘムとヘム代謝物の関連する光シグナルを個別に評価することを可能にしました。

 植物にとって光は光合成におけるエネルギーとしてだけでなく、環境情報を得るシグナルとしても重要な環境因子です。光シグナルはフィトクロム (注2)と呼ばれる光受容体タンパク質により感知されます。タンパク質を構成するアミノ酸は透明で可視光を吸収できません。そのため、タンパク質である光受容体が光を感知するためには色素が必須であり、これを色素団といいます。フィトクロムの色素団はフィトクロモビリン(PΦB)(注3)と呼ばれ、血色素として知られているヘムから合成されます。このようにヘムの代謝物であるPΦBは光シグナルにおいて重要な働きを持っていますが、一方、ヘム自身も葉緑体 (注4)の機能状態を核に伝えるシグナル分子として機能することが提唱されてきました。しかし、PΦBはヘムを基質として合成されることから、これまでヘムシグナルとフィトクロムシグナル (光シグナル) を切り分けて解析することは不可能でした(図1)。

 研究グループは、ヘム分子の異なる部位を開裂する2つのバクテリア由来ヘムオキシゲナーゼ(HO)を、それぞれ、主要なHO活性を失っている植物体(シロイヌナズナ(注5))に導入しました(図1)。1つのタイプ(Neisseria meningitidis由来)のHO(NmHO)は植物と同様の部位を開裂するためPΦBを合成できますが、もう1つのタイプ(Pseudomonas aeruginosa由来)のHO(PaHO)は、異なる部位を開裂するためPΦBを合成できません(図1)。これにより、ヘムを代謝しつつも、PΦB合成ができて活性型フィトクロムを形成できる植物体と、合成できない植物体をそれぞれ作製しました。その結果、フィトクロムが機能できない植物でも、核内の光合成関連遺伝子発現の変動が観察されました。このことにより、ヘム分子が色素体由来シグナル分子として実際に機能することを明らかにしました。さらに、バクテリア由来HOが色素体内で働く植物と細胞質内で働く植物も比較しました。すると色素体だけでなく細胞質でヘムを分解しても、核の光合成関連遺伝子発現が変動することが明らかとなりました。これらのことから、葉緑体で作られるヘムが細胞質を介して核にシグナルとして伝わり、葉緑体形成に関わる核内の光合成関連遺伝子発現を制御することが明らかになりました。また本研究から、光合成関連遺伝子の中には光シグナルも制御に関与するものと、しないものが存在することも分かりました。

 本研究成果は、2026年5月23日に「Plant Physiology」のオンライン版に掲載されました。

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図1 植物のヘム代謝系(左)とヘムオキシゲナーゼ(HO)欠損変異株(hy1-1)への
ヘムを部位特異的に開裂するバクテリア由来のHOの導入(右)
本研究では、Neisseria meningitidis由来HO(NmHO、オレンジ色)とPseudomonas aeruginosa由来HO(PaHO、赤色)を導入した。これらはヘム分子の異なる部位を特異的に開裂して(三角印)、それぞれBVIXα、BVIXβおよびBVIXδを生成する。BVIXαはフィトクロモビリン(PΦB)合成に使われるが、BVIXβおよびBVIXδは基質とならないため、機能的なフィトクロムを生成することができない。

発表内容

① 研究の背景・先行研究における問題点
 葉緑体は光合成を行う能力を有する色素体の1つの形で、原色素体から分化します。ヘムは、植物の色素体内で合成されます。そしてHOとPΦB合成酵素によって代謝され、活性型フィトクロムに必須なPΦBが合成されます(図1左)。フィトクロムはPΦBと結合することで、機能的な光受容体として働き、光発芽、葉緑体形成や花芽形成などの様々な生理過程に関与します。光により活性化されたフィトクロムは、核に移行し転写因子との相互作用を介して、葉緑体形成に関わる光合成関連遺伝子などの発現を制御することが知られています。一方で、葉緑体からもその機能や生理状態を核に伝えるシグナルが出ていると考えられていました。このようなシグナルはレトログレードシグナル(注6)と呼ばれます。顕著な例として、除草剤などで葉緑体を不活性化させると、レトログレードシグナルにより核内の葉緑体関連遺伝子発現が抑制される現象が知られています。その後、そのような抑制が起きない複数の変異体の解析から、ヘムがレトログレードシグナルとして機能することが提唱されました。

 以上のように、葉緑体形成にはフィトクロムを介した光シグナルとレトログレードシグナルであるヘムが関与していると考えられてきましたが、PΦBはヘム代謝系で合成されることから、これまで2つのシグナル伝達系を切り分けて解析することができませんでした。PΦBは、HOの生成物であるビリベルジンIXα (BVIXα) から作られます。一般的なバクテリアのHOは、このBVIXαを生成します。しかし、一部の感染性のバクテリアは、ヘムを開裂する位置が異なるHOを有しており、BVIXβとBVIXδを生成することが知られていました(図1右)。後者のHOが植物のHOの代わりに働くと、PΦB合成酵素はBVIXβとBVIXδを基質にできないことから、PΦBが合成されず、活性型フィトクロムが合成されないと予測されます。これによりヘムを分解しつつもPΦBを合成できない植物体を作出・解析できる、即ち、ヘムシグナルとフィトクロムシグナルとを分離して解析できると考えました。

② 研究内容(具体的な手法など詳細)
 まずBVIXα、BVIXβおよびBVIXδが、PΦB合成酵素の基質と成り得るかについて、既知のPΦB合成酵素‐BVIXα複合体の構造を基に結合シミュレーションを行い、BVIXαが最も基質として適していることを明らかにしました。次に、バクテリア由来の2種類のHO(NmHOおよびPaHO)を、それぞれ大腸菌体内で発現精製しました。活性測定により、NmHOがBVIXαを、PaHOが BVIXβとBVIXδを生成することを確認しました。さらに精製したPΦB合成酵素を用いて、BVIXαのみが基質としてPΦB合成に使われることを確認しました。

 そこで、シロイヌナズナの主要なHOを欠損した変異体(hy1-1)に、それぞれNmHOおよびPaHOを導入した形質転換体を作出することにしました。この際、以前の研究からHOが細胞質でも機能することが分かっていたため、葉緑体内および細胞質でHOを発現させる形質転換体を作出しました(図2a)。バクテリア由来酵素の発現局在は、共焦点顕微鏡を用いて確認しました。得られた形質転換体について、葉緑体内または細胞質での発現を、緑色蛍光タンパク質(GFP)の蛍光シグナルを指標に確認しました(図2b)。

 得られた形質転換体において、機能的なフィトクロムが形成されているかどうかについて、その芽生えの表現型とフィトクロムタンパク質の蓄積を指標に解析しました。機能的なフィトクロムは光によって速やかに分解されることが知られているため、フィロクロムA (PHYA) 抗体を用いた免疫ブロットによって、その量を確認しました。 NmHOでは野生株のようにフィトクロムが減少していましたが、PaHOではフィトクロムはhy1-1変異体と同様に、高いレベルで蓄積していました(図2c)。

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図2 バクテリア由来部位特異的HOのhy1-1変異体への導入
(a)形質転換体作出のためのコントラスト。(b)形質転換体におけるGFP蛍光の観察。細胞質型および色素体型において、それぞれGFP蛍光が観察されている。(c)フィトクロムタンパク質の蓄積。抗フィトクロムA抗体を用いた免疫ブロット。NmHO導入によりフィトクロムAのレベルが低下しているが、PaHO導入によってもフィトクロムAのレベルはhy1-1と同様に高いままであり、機能的なフィトクロムが形成されていないことを示している。

 植物の明所芽生えは双葉(子葉)が展開し、短い胚軸(注7)を示しますが、暗所では子葉は閉じて、発達せず、また胚軸は長いままです。hy1-1変異体では、PΦBが合成できず、機能的なフィトクロムが形成できないことから、明所でも暗所芽生えのように長い胚軸の表現型を示します。hy1-1変異体にNmHOを導入した形質転換体では、野生株のように短い胚軸で、子葉も展開しており、機能的なフィトクロムを形成していることが分かりました。一方、PaHOを導入した形質転換体では、胚軸は長いままでした(図3a)。またこれらの形質転換体におけるヘムの量を調べたところ、NmHOでは野生株のレベルまで、PaHOではそれ以上のヘムの低下が認められました(図3b)。以上の結果から、ヘムを分解しつつ、野生株のようにBVIXαからPΦB を合成して、機能的なフィトクロムを形成できるNmHO導入形質転換体と、ヘム分解は起こるが、BVIXβおよびBVIXδを生成するため、機能的なフィトクロムを形成できないPaHO導入形質転換体を作出することができました。

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図3 バクテリア由来部位特異的HO導入形質転換体の表現型
(a)形質転換体の写真。NmHO導入形質転換体では野生株と同様に胚軸の伸長が抑制されているが、PaHO導入形質転換体では、hy1-1と同様に胚軸は長いままである。(b)形質転換体におけるヘム含量。NmHO導入形質転換体では野生株のレベルまでヘム含量が減少している。PaHO導入形質転換体ではヘム含量は野生株よりも有意に低いレベルまで、ヘムが分解されている。

 ノルフルラゾンはカロテノイドの合成を阻害するため、植物体は白化し、葉緑体の機能が失われることが知られています。このような植物体では、レトログレードシグナルにより核内の光合成関連遺伝子の発現が抑制されることが知られています。一方、hy1-1変異体では、ヘム分解ができないことからヘムが蓄積しており、このヘムがレトログレードシグナルとして働くことで核内の光合成関連遺伝子の発現が脱抑制されることが提唱されています。そこで、得られた形質転換体にノルフルラゾンを処理し、核内の光合成関連遺伝子の発現量を定量的PCR (RT-qPCR) により調べました。その結果、野生株では発現が抑制され、hy1-1変異体では発現が脱抑制されていました(図4)。NmHO導入形質転換体でも、野生株のように抑制されていました。さらに興味深いことに、機能的なフィトクロムが形成できないPaHO導入形質転換体においても、光合成関連遺伝子の発現が抑制されていました(図4)。この結果から、ヘムがレトログレードシグナルとして核内の光合成関連遺伝子の発現を制御していることが明らかとなりました。

 また、一部の光合成関連遺伝子(LHCB1.2など)では、PaHO導入形質転換体が最も強い脱抑制を示しました(図4a)が、その他の光合成関連遺伝子(CA1など)では、NmHOの方が強い脱抑制を示した(図4b)ことから、後者の遺伝子発現制御にはフィトクロムシグナルも関与していることが明らかとなりました。また以上のことは、葉緑体内に導入した形質転換体だけでなく、細胞質に導入した形質転換体でも同様の結果が得られることが分かりました。以上の結果から、ヘムが葉緑体から細胞質を介して核内の光合成遺伝子発現制御に関わっていることも明らかとなりました。

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図4 バクテリア由来部位特異的HO導入形質転換体における光合成関連遺伝子の発現
(a)LHCB1.2遺伝子の発現変化。ノルフルラゾン処理により、野生株では発現が抑制されているが、hy1-1変異体では脱抑制されている。NmHO導入形質転換体では発現が抑制されている。PaHO導入形質転換体の葉緑体型において最も強い脱抑制が認められている。(b)CA1遺伝子の発現変化。NmHO導入形質転換体で、PaHOよりも強い抑制が認められる。以上の結果は、LHCB1.2では主にヘムシグナルが、CA1ではヘムシグナルとフィトクロムシグナルの両方が、遺伝子発現の抑制に関与していることを示している。

 以上のように、本研究におけるヘムを部位特異的に開裂するバクテリア由来HOの導入というユニークな研究手法により、これまで不可能であったヘムシグナルとフィトクロムシグナルを切り分けることに成功し、それぞれのシグナルの役割を明らかにすることに成功しました。またヘムが色素体由来のレトログレードシグナルとして、細胞質を介して核に伝達されることも明らかにしました。

③ 社会的意義・今後の予定
 本研究成果は、光合成の場である植物の葉緑体形成について、その分子機構に新たな知見を与えるものです。今後、効率的な葉緑体形成、ひいては光合成効率を向上させた植物体の作出に繋がることが期待されます。


発表者・研究者等情報

東京大学

大学院総合文化研究科広域科学専攻
竹野谷 美穂子 特任助教
三宅 敬太 助教
増田 建 教授

奈良女子大学

研究院自然科学系
清水 隆之 准教授


論文情報

雑誌名:「Plant Physiology」(オンライン版:5月23日)
題名:Introduction of regioselective bacterial heme oxygenases into Arabidopsis hy1-1 supports the retrograde heme signaling hypothesis
著者名:Mihoko Takenoya, Takayuki Shimizu, Keita Miyake, Tatsuru Masuda
DOI:10.1093/plphys/kiag304


研究助成

本研究は、科研費「基盤研究(C)(課題番号:25K09497, 25K09546)」、「学術変革領域(A)(課題番号:24H02069)」、「国際共同研究加速基金(海外連携研究)(課題番号:23KK0127)」の支援により実施されました。


用語解説

(注1)ヘム
プロトポルフィリンIXと呼ばれる分子の中心に鉄が配位した分子。全ての生物が有する分子で、タンパク質に結合する補因子として、酸素運搬や電子伝達など、様々な機能に関わっている。動物細胞ではミトコンドリアで合成されるが、植物細胞では色素体で合成される。

(注2)フィトクロム
緑藻を含む緑色植物に広く存在する光形態形成反応の光受容体。赤色光と遠赤色光に応答する。PΦB 1分子が発色団として共有結合した色素タンパク質。遺伝子発現制御や膜機能の制御、細胞分裂の調整など分子・細胞レベルの応答から、光発芽光屈性重力屈性の感度の調節、黄化芽生えの緑化、生物時計のリセットなどの個体レベルの応答まで様々知られている。

(注3)フィトクロモビリン(PΦB)
ヘムから2段階の酵素反応を経て合成される。フィトクロムのアポタンパク質と結合して、機能的なフィトクロムを形成する。

(注4)葉緑体
植物の細胞内で光合成を担う細胞内小器官。植物の生育初期に原色素体から発達して形成する。特に光合成を行うように分化したものを葉緑体という。葉緑体内部ではチラコイド膜が発達しており、光合成を行う装置が埋め込まれている。

(注5)シロイヌナズナ
アブラナ科の被子植物。2000年に植物として初めてゲノム配列が解読された。多くの変異系統が維持されており、モデル生物としての利点を多く備えていることから、研究材料としてよく用いられている。

(注6)レトログレードシグナル
細胞小器官で起きた状態変化を核に伝え、核内の遺伝子発現を制御するシグナル。通常、核から細胞小器官へとシグナルが伝わるが、逆行的(レトログレード)に細胞小器官から核に伝わることから、名付けられた。本研究では特に葉緑体から核へのレトログレードシグナルを指す。様々なシグナル伝達系が報告されているが、ここでは特に発生初期に葉緑体形成に機能するシグナルを示している。

(注7) 胚軸
双子葉植物において、芽生えにおける子葉から根までを繋ぐ茎の部分。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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