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最終更新日:2026.07.03

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トピックス 2026.07.03

【研究成果】原発事故から10年超、果実の放射性セシウムはなぜ減りにくいのか? ──帰還困難区域内のキウイを5年間追跡し、実効半減期7.9年を算出──

2026年7月3日
東京大学大学院総合文化研究科
コロラド州立大学
ウィーン工科大学

発表のポイント

  • 福島第一原子力発電所事故後、除染が行われていない避難指示区域(福島県浪江町小丸地区)において、同一のキウイフルーツの樹から5年間連続(2021〜2025年)で計533個の果実を採取し、放射性セシウム(137Cs)濃度の長期的な変化を測定しました。
  • 137Csの実効半減期(Teff)を7.9年と推定し、避難指示区域外の果樹で報告されている値(おおむね数か月〜1年)に比べて著しく長いことを明らかにしました。事故から10年以上を経た「回復期」の果樹中セシウムの長期動態を定量的に示した、希少なデータです。
  • 2023年以降は国の基準値(100 Bq/kg)を超える果実は確認されなくなった一方、全測定年で137Csが検出され続けており、地形・降雨や風による二次的な移動・除染の有無といった立地条件が長期動態を大きく左右することを示しました。避難指示の解除や営農再開の可否を検討するうえで重要な知見です。
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帰還困難区域内で採取したキウイ

概要

 東京大学大学院総合文化研究科の小豆川勝見助教らの研究グループは、福島第一原子力発電所事故の避難指示区域内(福島県浪江町小丸地区)で自生したキウイフルーツについて、同一の樹から5年間(2021〜2025年)にわたり連続採取した計533個の果実を分析し、放射性セシウム(134Cs・137Cs)(注1)の長期的な挙動を明らかにしました。

 小丸地区は原発の北西約12kmに位置し、事故直後の放射性セシウム沈着量が県内でも最も高い水準にあった地域です。一方で事故後に除染が行われていないため、放射性セシウムの自然な環境動態を人為的な撹乱の少ない条件で観察できる、稀有な場所でもあります。

 分析の結果、果実中137Csの生態学的半減期(Teco)(注2)は10.7年、物理学的半減期(30.2年)と合わせた実効半減期(Teff)(注3)は7.9年と推定されました。これは避難指示区域外の果樹で報告されている値(数か月〜1年程度)よりはるかに長く、(1) 汚染した土壌からの根を通じた吸収の継続と、(2) 谷地形に沿って周囲の斜面から放射性セシウムがゆるやかに二次堆積(注4)することが、同時に起きていることが要因と考えられます。

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図1:2025年に採取したキウイに含まれていた137Cs濃度分布

発表内容

① 研究の背景
 2011年の福島第一原発事故により、帰還困難区域(注5)内では一部の実証栽培を除き営農が制限されてきました。放射性セシウムの環境中での挙動は、事故直後とは異なる段階に入っていると考えられます。特に農作物中の実効半減期(Teff)は、表面に沈着した放射性セシウムの寄与が減り、土壌から根を通じた吸収が相対的に大きくなることで、事故初期より長くなると予想されます。

 実効半減期の評価は複数年にわたる連続観測が不可欠です。しかし避難指示区域内の作物は放射能レベルにかかわらず出荷が認められないこともあり、区域内で育つ作物の長期データはきわめて限られていました。とりわけ、事故から10年以上を経た区域内作物について、複数年の連続観測に基づく実効半減期の定量評価はこれまで十分な報告数がありませんでした。

② 研究内容
 研究グループは、福島県浪江町小丸地区の住居に残るキウイフルーツの樹に着目しました。キウイは病害虫に強く、手入れがなくても毎年結実するため、同一個体で年ごとの変化を追跡するのに適しています。2021〜2025年の各年11月に同じ樹から果実を採取し(計533個)、果皮の影響を除くために洗浄・剥皮したうえで、ゲルマニウム半導体検出器(HPGe)(注6)によるガンマ線スペクトロメトリーで134Cs・137Cs・40Kを定量しました。

 全ての果実で137Csが検出された一方、134Csは物理学的半減期が相対的に短いため検出限界以下でした。各年の濃度分布はいずれも正規分布とみなせ、年平均値を用いた重み付き回帰からTeco=10.7年、Teff=7.9年を得ました。2023年以降は基準値を超える果実は確認されませんでしたが、全ての年で137Csが検出され続けました。なお、採取地点は谷の底に位置し、周囲の斜面から雨や風で運ばれた放射性セシウムが集まりやすいことが、別途の線量計による連続観測からも示されています。

③ 社会的意義・今後の予定
 本研究は、帰還困難区域内の果樹における放射性セシウムの長期動態を、複数年の連続観測に基づいて定量的に示した数少ない事例です。得られたTeffが帰還困難区域外より著しく長いことは、区域内のセシウム動態が立地(地形・水文・除染状況)に強く依存し、除染済み農地で得られたデータから単純に外挿できないことを示しています。これは避難指示の解除条件や営農再開の可否を科学的に検討するうえで、重要な基礎情報となります。

 今後は、複数年にわたる土壌データを併せて取得することで、(1) 粘土鉱物への固定の進行による土壌から作物への移行の低下と、(2) 斜面からの二次堆積という2つの機構の寄与を切り分け、長期動態の機構的な理解を深めることが課題です。


発表者・研究者等情報

東京大学 大学院総合文化研究科 広域科学専攻
小豆川 勝見 助教(責任著者)

東京大学 教養学部附属 教養教育高度化機構
堀 まゆみ 特任助教

Colorado State University(コロラド州立大学)
Thomas E. Johnson(Department of Environmental and Radiological Health Sciences)

Technische Universität Wien(ウィーン工科大学)
Georg Steinhauser(TRIGA Center Atominstitut & Institute of Applied Synthetic Chemistry)


論文情報

雑誌名:Journal of Radioanalytical and Nuclear Chemistry(オンライン版:7月1日)
題名:Effective half-lives of radiocesium in kiwifruit in the evacuation zone after the Fukushima Dai-ichi nuclear power plant accident
著者名:Katsumi Shozugawa, Mayumi Hori, Thomas E. Johnson, Georg Steinhauser
DOI:10.1007/s10967-026-11013-9
URL:https://link.springer.com/article/10.1007/s10967-026-11013-9


研究助成

本研究は、JSPS科研費(課題番号:19K12306、22H03729)および公益財団法人住友財団 環境研究助成(No. 213288)の支援を一部受けて実施されました。


用語解説

(注1)放射性セシウム(134Cs・137Cs):
放射線を出すセシウムの同位体。福島第一原発事故で環境中に放出された。137Csの物理学的半減期は約30.2年、134Csは約2.06年で、事故から時間が経つにつれて134Csは大きく減衰する。

(注2)生態学的半減期(Teco)/物理学的半減期:
生態学的半減期は、崩壊以外の環境要因(流出・吸着・希釈など)によって対象から半分に減る時間。物理学的半減期は核種が崩壊して半分になる時間。両者の逆数の和の逆数が実効半減期になる。

(注3)実効半減期(Teff):
環境や生物の中で、ある放射性核種の量が見かけ上半分になるまでの時間。核種そのものの崩壊(物理学的半減期)と、移動・希釈・固定などの環境要因(生態学的半減期)の両方を合わせた指標。

(注4)二次堆積:
いったん地表に沈着した放射性物質が、雨や風によって運ばれて別の場所に再び集まる現象。谷地形では周囲の斜面から谷底に集まりやすい。

(注5)帰還困難区域:
福島第一原発事故後、放射線量等を理由に居住や立ち入りが厳しく制限された区域。区域内の農作物は放射能レベルにかかわらず出荷が認められていない。

(注6)ゲルマニウム半導体検出器(HPGe):
ガンマ線のエネルギーを高い分解能で測定できる検出器。試料に含まれる放射性核種の種類と量を精密に定量できる。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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