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最終更新日:2026.08.24

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トピックス 2026.08.24

【研究成果】遺伝子改変不要!混ぜるだけで免疫細胞の殺菌能を強化 ──マクロファージ表面をDNAアプタマーで装飾して細菌を効率的に貪食──

2026年8月24日
東京大学大学院総合文化研究科

発表のポイント

  • 末端を脂質修飾したDNAアプタマーを、免疫細胞に「混ぜるだけ」で細胞表面に固定化し、免疫細胞の大腸菌に対する貪食効率を向上させる迅速かつ簡便な手法を考案しました。
  • 遺伝子改変技術を必要とせず、わずか10分間の混合操作のみで免疫細胞の殺菌能を高める低侵襲な手法で、大腸菌に対する免疫細胞のひとつであるヒト由来マクロファージ様細胞の殺菌能を最大で約3.6倍強化できることを明らかにしました。
  • 本手法は、細胞膜表面に導入したDNAアプタマーの近接誘導効果を利用したもので、アプタマー配列を交換すれば他の病原体にも対応できるモジュール型プラットフォームであるため、薬剤耐性菌への対抗策として抗生物質と併用する宿主指向性療法への応用が期待できます。
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図1. 脂質(コレステロール)修飾DNAアプタマーによるマクロファージ様細胞の表面装飾と
殺菌(細菌貪食)の促進

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の吉本敬太郎准教授、朽木静香大学院生、横森真麻特任助教らの研究グループは、株式会社リンクバイオ(武藤進、稲見有希)および東京理科大学理学部第一部化学科の由井宏治教授との共同研究により、コレステロール基を付加したDNAアプタマー(注1)をヒト由来マクロファージ様細胞(THP1-MØ)(注2)と「混ぜるだけ」で細胞膜に非共有結合的に脂質挿入(注3)し、細菌(大腸菌)に対する貪食(ファゴサイトーシス)(注4)活性を大幅に向上させる新しい手法を開発しました(図1)。

 本研究では、コレステロール修飾したDNAアプタマー(P12-31-Chol)をマクロファージと10分間混合するだけで細胞表面に効率的に固定化できることを見出し、その結果、標的細菌との近接性が高まることで、未修飾細胞と比較して約3.6倍の貪食活性を達成しました。ウイルスベクターによる遺伝子改変を必要とする従来のCAR-M(キメラ抗原受容体マクロファージ)技術と比較して、製造が容易でコストも低く、アプタマー配列の設計変更のみで多様な病原体に対応できる汎用的なプラットフォームとして、薬剤耐性菌対策や新規免疫療法への応用が期待できます。


発表内容

〈研究の背景〉
 マクロファージは自然免疫系の中心的なエフェクター細胞として、Fc受容体、補体受容体(CR3/CR4)、スカベンジャー受容体、Toll様受容体などの多様な表面受容体を介して微生物を認識し、貪食・殺傷する役割を担っています。しかし、多くの病原細菌は莢膜(きょうまく)形成やプロテアーゼ分泌などの免疫回避機構を進化させており、マクロファージによる貪食を巧妙にすり抜けて感染を拡大させます。

 こうした課題に加え、抗生物質耐性菌の増加が世界的な脅威となる中、宿主自身の免疫細胞の機能を強化する宿主指向性療法(Host-Directed Therapy)(注5)が注目されています。中でもマクロファージにキメラ抗原受容体を発現させるCAR-Mの開発が進んでいますが、ウイルスベクターを用いた遺伝子改変が必要なため、製造工程が複雑で高コスト・長時間を要する点が大きな課題でした。そこで研究グループは、遺伝子改変を必要とせず、細胞を「混ぜるだけ」で短時間かつ簡便に殺菌能を強化する新しい手法の開発を目指しました。

〈研究の内容〉
 本研究では、大腸菌(Escherichia coli)に高親和性で結合する85塩基のDNAアプタマー(P12-31)の3'末端に脂質(コレステロール基)を化学的に修飾した「P12-31-Chol」を設計しました。コレステロール基は疎水的な性質により、細胞膜の脂質二重層に自発的に挿入されるため、共有結合や遺伝子改変を用いることなく細胞表面にアプタマーを固定化できます。ヒト単球細胞株THP1をマクロファージ様に分化させたTHP1-MØに対し、わずか2 nMの濃度で10分間混合するだけで、アプタマーが細胞膜に効率よく装着されることを確認しました(図2)。

 この条件下では細胞膜損傷は1%未満に抑えられ、血清含有培地中で2時間インキュベート後も90%以上のアプタマーが分解されずに維持されるという高い安定性を示しました。次に、アプタマー修飾マクロファージと蛍光標識した大腸菌を共培養したところ、修飾細胞は30分以内に貪食がプラトーに達し、未修飾のコントロールと比較して約3.6倍高い蛍光強度(=取り込まれた細菌量)を示しました(図3A)。共焦点レーザー走査顕微鏡による観察でも、貪食された大腸菌とアプタマーの共局在が確認されたことから、アプタマーがマクロファージの貪食効果の向上に関与していることが明らかとなりました(図3B)。

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図2. コレステロール修飾アプタマーによるマクロファージ表面装飾
(A)P12-31-Cholをマクロファージ(THP1-MØ)に混合し、非共有結合的な脂質挿入により細胞表面にアプタマーを提示する手法の模式図。(B)アプタマー修飾後の細胞生存率。膜損傷は1%未満に抑えられており、細胞への毒性がないことを示している。(C)共焦点レーザー走査顕微鏡による観察画像。アプタマー(Cy3、オレンジ)は細胞膜に効率的に提示され、時間とともに一部はリソソーム(緑)に取り込まれる。

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図3. アプタマー修飾マクロファージによる大腸菌貪食活性の評価
(A)蛍光標識大腸菌に対する貪食活性の経時変化。アプタマー修飾マクロファージ(P12-31-Chol)は、未修飾コントロール(Aptamer free)に比べ約3.6倍高い貪食活性を示した。(B)共焦点レーザー走査顕微鏡による観察画像。貪食された大腸菌(緑)とアプタマー(オレンジ)の共局在が確認されたことから、アプタマーがマクロファージの貪食効果の向上に関与している直接的な証拠が得られた。

さらに、コレステロール修飾のないアプタマーや遊離コレステロールを添加した対照実験では貪食促進効果は認められず、コレステロール修飾によるアプタマーの膜への安定的な提示が、標的細菌との近接性を高め、貪食を効果的に促進することが示されました(図4)。
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図4. 異なる細胞表面修飾条件における蛍光標識大腸菌貪食活性の経時変化の比較
(A) アプタマー修飾マクロファージ(P12-31-Chol)および未修飾マクロファージ(Aptamer free)の比較。
(B) コレステロール修飾のないアプタマー添加マクロファージ(P12-31)および未修飾マクロファージ(Aptamer free)の比較。(C)遊離コレステロール添加、Chol-polyA 修飾、Chol-random 修飾マクロファージおよび未修飾マクロファージ(Aptamer free)の比較。

〈今後の展望〉
本研究で開発した手法は、遺伝子改変を必要とせず、わずか10分間「混ぜるだけ」で完了する非常に簡便な手法でありながら、免疫細胞にダメージを与えることなく細菌貪食能を大幅に向上させることができます。アプタマーは配列を設計・交換するだけで様々な病原体を標的にできる「モジュール型」プラットフォームであり、大腸菌以外の耐性菌や真菌、ウイルスなどへの応用も期待できます。将来的には、抗生物質治療を補完する宿主指向性療法のアジュバントや、迅速調製が可能な治療用細胞製剤としての臨床応用への展開が期待できます。


発表者・研究者等情報

東京大学

大学院総合文化研究科
吉本 敬太郎(准教授)
朽木 静香(大学院生)
横森 真麻(特任助教)

東京理科大学

理学部第一部化学科
由井 宏治(教授)

株式会社リンクバイオ

研究開発部門
武藤 進
稲見 有希


論文情報

雑誌名:Chemical Communications
題名:Non-Covalent Aptamer Decoration Promotes THP1-MØ Phagocytosis of Bacteria by Enhancing Target Proximity
著者名:Shizuka Kuchiki, Maasa Yokomori, Susumu Muto, Yuki Inami, Hiroharu Yui, Keitaro Yoshimoto
DOI:10.1039/d6cc02855a

【研究助成】本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(KAKENHI)(課題番号:25H01283、24K01507)と、東京大学とリンクバイオ社間の共同研究費の支援を受けて行われました。

【利益相反(COI)について】 本研究は、東京大学の利益相反マネジメントに基づき適切に管理・実施された共同研究による成果です。なお、著者の吉本敬太郎は株式会社リンクバイオの役員(CTO)を兼職しておりますが、本プレスリリースおよび本研究における同氏の関与は東京大学における研究者としての立場に基づくものであり、同社における職責とは分離して実施されています。


用語解説

(注1)DNAアプタマー:
特定の標的分子(タンパク質、細胞、細菌など)に対して高い親和性と特異性を持って結合する、短い単鎖のDNA分子。人工的な抗体様分子として、診断・治療・センサー分野で幅広く研究されています。本研究では大腸菌に結合する85塩基のDNAアプタマー(P12-31)を使用しました。

(注2)ヒト由来マクロファージ様細胞(THP1-MØ):
自然免疫系において、死んだ細胞や病原体を取り込んで消化する役割を持つ食細胞(貪食細胞)。THP1-MØは、ヒト急性単球性白血病由来のTHP1細胞株を、ホルボールミリステートアセテート(PMA)などで刺激することでマクロファージ様に分化させたモデル細胞で、免疫研究に広く用いられます。

(注3)非共有結合的な脂質挿入:
コレステロールなどの疎水性分子が細胞膜の脂質二重層に自発的に「刺さる」性質を利用した細胞表面修飾法です。共有結合による化学修飾と異なり、細胞への侵襲が少なく、遺伝子改変を必要としないため、迅速かつ低コストで細胞機能を付与できます。

(注4)貪食(ファゴサイトーシス):
マクロファージや好中球などの食細胞が、細菌や死細胞などの大きな粒子を細胞膜で包み込むように取り込み、細胞内で分解する免疫プロセス。生体防御の最前線を担う機構です。

(注5)宿主指向性療法(Host-Directed Therapy):
病原体を直接攻撃する従来の抗生物質療法とは異なり、感染を受けた宿主(患者)自身の免疫細胞や生体防御機構を強化・調節することで感染症を治療するアプローチ。薬剤耐性菌の出現を抑えながら効果的な治療を実現できる次世代の感染症対策として注目されています。

―東京大学大学院総合文化研究科・教養学部 広報室―

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