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2026.09.15
【研究成果】イルカは相手の声に重ねて返事をする ──ハンドウイルカの音声交換で声が重なる仕組みを解明──
2026年9月15日
大阪大学
東京海洋大学
三重大学
東京大学大学院総合文化研究科
研究成果のポイント
- ハンドウイルカは個体固有の鳴き声を交換する際、相手の声が終わる前に鳴き始め、声を重ねて応答していることを解明。
- これまで、イルカの音声交換では声の重なりが観察されていたものの、それが偶然に生じるのか、相手の鳴き声への応答として重なっているのかは分かっていなかった。
- 再生実験と統計的なシミュレーションを組み合わせることで、声の重なりは、相手の鳴き声を予測して発声するのではなく、相手の鳴き声を聞いてから、その鳴き声が終わる前にすばやく応答することで生じる可能性が高いことを明らかに。
- 声の重なりを避けないというイルカに特徴的な音声交換の時間的ルールを示し、今後、動物の音声コミュニケーションやヒトの会話の進化を理解する手がかりになると期待。
概要
大阪大学大学院人間科学研究科の寺田知功助教、フランス・レンヌ大学のAlban Lemasson教授、東京海洋大学の三島由夏助教、三重大学の森阪匡通教授、アドベンチャーワールドの弓削ほたる氏、東京大学の香田啓貴准教授らの研究グループは、ハンドウイルカが個体固有の鳴き声※1である「シグネチャーホイッスル※2」を交換する際に、互いの声が重なる仕組みを調べました。本研究では、世界で初めて、ハンドウイルカの音声交換※3における声の重なりが偶然ではないことを実験的に示し、さらに、その重なりが相手の鳴き声を予測して生じるのではなく、相手の声を聞いた後のすばやい応答によって生じる可能性が高いことを明らかにしました。
ヒトの会話では、相手の発話が終わる頃を見計らって応答し、声の重なりや長い沈黙を避けます。一方、イルカの音声交換では、互いの鳴き声が重なることが観察されていましたが、偶然重なっているのか、それとも相手の鳴き声への応答として重なっているのかは分かっていませんでした。
研究グループは、和歌山県のアドベンチャーワールドで飼育されているメスのハンドウイルカ5頭を対象に、自然に発せられる鳴き声を記録するとともに、別の個体のシグネチャーホイッスルを水中で再生する実験を行いました。その結果、再生音とイルカの声の重なりは、イルカが声の重なりを特に調整せずに鳴き返していた場合を想定したシミュレーションよりも多く、声の重なりは偶然だけでは説明できませんでした。また、イルカは自分の鳴き声を一定のリズムで繰り返す傾向を示しました。しかし、一定間隔の再生音と不規則な間隔の再生音を比較しても、声が重なる回数や応答の速さに差はありませんでした。
これらの結果から、イルカは相手の次の発声を、発声のリズムから予測して声を重ねるのではなく、相手の声を聞いてから、その声が終わる前にすばやく応答することで声を重ねている可能性が高いと考えられます。本成果は、ヒトを含む動物に共通する「すばやく返事をする」という特徴と、声の重なりを避けないというイルカの特徴を同時に示し、動物の音声交換の進化と多様性を理解する手がかりとなります。
本研究成果は、動物行動学の国際学術誌『Animal Behaviour』に、2026年8月13日に掲載されました。
研究の背景
ヒトの会話では、話し手が交代する際の時間が非常に短い一方、複数人の声があまり重ならないように調整されています。鳥類や霊長類など、多くの動物の親和的な音声交換でも、声の重なりや長い沈黙を避ける時間的な調整が報告されています。
ハンドウイルカは、個体ごとに固有な「シグネチャーホイッスル」を発し、この鳴き声を個体識別のための音響的なラベルとして利用します。個体同士が接触したときや再会したときには、シグネチャーホイッスルを発します。ところが、イルカの音声交換では、一方の鳴き声が終わる前に他方が鳴き始め、声が重なる事例がしばしば観察されます。
これまでの研究では、イルカの声が重なること自体は観察されていましたが、それが偶然生じるのか、相手の次の発声を予測して重ねているのか、あるいは相手の声を聞いた後にすばやく応答することで生じるのかは検証されていませんでした。
研究の内容
研究グループは、アドベンチャーワールドで飼育されているメスのハンドウイルカ5頭を対象に、研究を行いました。
まず、実際に観察された声の重なりが偶然で生じうる範囲かを調べました。イルカが声の重なりを特に調整せずに鳴き返していた場合を想定したシミュレーションを行い、声が重なる割合を比較しました。その結果、実際の重なりはシミュレーションよりも有意に多く、声の重なりは偶然だけでは説明できませんでした。
次に、イルカが相手の次の発声を予測して声を重ねているのかを調べました。自然に生じたシグネチャーホイッスルの連続発声を分析したところ、イルカは鳴き声をほぼ一定の間隔で繰り返していました。そこで、一定間隔で鳴き声を再生する条件と、間隔を不規則にした条件を設けました。予測に基づいて声を重ねるのであれば、次の音が来るタイミングを予測しやすい一定間隔の条件で、重なりが多くなると考えられます。しかし、これらの条件間で、声が重なる回数や再生音が始まってからイルカが鳴き始めるまでの時間に有意な差はありませんでした。このことから、イルカはリズムを手がかりとして相手の次の発声を予測するのではなく、相手の鳴き声を聞いた後、その鳴き声が終わる前にすばやく応答していると考えられます。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
音声を交互にやり取りするコミュニケーションは、ヒトの会話だけでなく、さまざまな動物にみられます。本研究は、イルカも他の動物と同様に応答の遅れを小さくする一方、ヒトや多くの動物とは異なり、声の重なりを避けず、音声交換の一部として取り込んでいる可能性を示しました。この成果は、音声交換に共通する特徴と、種ごとに異なる特徴を切り分けるうえで重要です。
特記事項
本研究成果は、2026年8月13日(木)に動物行動学の国際学術誌「Animal Behaviour」に掲載されました。
タイトル:"Testing mechanisms underlying vocal overlap during vocal exchange of signature whistles in common bottlenose dolphins"
著者名:Tomoyoshi Terada、Alban Lemasson、Yuka Mishima、Tadamichi Morisaka、Hotaru Yuge、Hiroki Koda
DOI:10.1016/j.anbehav.2026.123680
なお、本研究は、日本学術振興会特別研究員奨励費(24KJ0074)、科学研究費助成事業(22H05651、24H01436、23H05428、23K25168、26H01985)、および在日フランス大使館Exploration France 2025の助成を受けて実施されました。
用語説明
※1 鳴き声
イルカは声帯ではない場所で音を出しているため、イルカが発する音は「鳴音」と呼びますが、ここでは分かりやすさを優先して「鳴き声」あるいは「声」という語を使っています。
※2 シグネチャーホイッスル
ハンドウイルカが主に発する、個体ごとに特徴的な周波数変化をもつ鳴き声。個体識別に用いられる音響的なラベルとして機能すると考えられている。
※3 音声交換
複数の個体が互いの発声に応答しながら、鳴き声をやり取りすること。

