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2026.09.18
【研究成果】高温の恒星周辺を楕円軌道で公転するホットジュピターを発見 ──トランジット観測のタイムリミットはあと7年──
2026年9月18日
東京大学
発表のポイント
- 太陽系から約800光年離れた、太陽よりも約3000℃も高温の恒星TOI-1355の周りで、ホットジュピターTOI-1355bを発見しました。
- TOI-1355bの軌道の形が、熱い恒星の周りでは珍しく楕円であると解明し、「熱い恒星周辺のホットジュピターは軌道が歪んで恒星近くに移動して形成された」という説を裏付けました。
- 今後の観測により惑星大気や惑星軌道のさらなる解明が期待される一方、軌道の変化により、その手法であるトランジット観測が2033年半ば以降にできなくなる可能性が示されました。
2026年の時点では、恒星の縁をかすめるような軌道に見えます。
概要
東京大学大学院総合文化研究科の渡辺紀治特任研究員、成田憲保教授、福井暁彦講師を中心とした研究チームは、宇宙望遠鏡と地上望遠鏡の連携した観測により、太陽系から約800光年の距離にある恒星TOI-1355を周回するホットジュピター(注1)TOI-1355bを発見しました。この惑星は恒星の周りを約2日の周期で公転しており、恒星は表面温度が約8400℃と太陽(約5500℃)よりも3000℃近く高温です。これまでに発見された、熱い恒星周辺のホットジュピターのほとんどは円軌道でしたが、TOI-1355bの軌道は真円ではなく、やや歪んだ楕円型であるという珍しい特性を持つことが分かりました。熱い恒星周辺のホットジュピターは、かつて恒星から遠い場所で生まれた後に他の天体との重力によって軌道が楕円に歪み、その後少しずつ円軌道に変わりながら恒星に近づいて移動したと推測されています。TOI-1355bは円軌道へ変化する途中にある惑星と考えられ、この理論を直接裏付ける重要な成果となりました。今後この惑星に対して詳細な観測を行うことで、惑星大気や惑星軌道のさらなる解明が期待されます。しかし、その鍵となるトランジット観測(惑星が恒星の手前を横切る様子を捉える観測)が、軌道の移動によって2033年半ば以降にできなくなる可能性も今回の研究で示されました。
発表内容
太陽系外でこれまでに500個以上発見されているホットジュピターは、かつて木星のように恒星から離れた場所で誕生し、その後、恒星の近くまで移動したと考えられています。特に表面温度が6000℃以上と、太陽よりも熱い恒星を公転するホットジュピターについては、他の天体の重力によって軌道が乱され、細長い楕円軌道となった後、恒星の影響で円軌道に近づきながら恒星付近に移動したと推測されています。これは「高離心率移動」(図1)と呼ばれる惑星移動理論ですが、今まで発見された、熱い恒星周りのホットジュピターのほとんどが円軌道を描くため、高離心率移動を直接裏付ける観測的根拠は限られていました。
東京大学大学院総合文化研究科の渡辺紀治特任研究員、成田憲保教授、福井暁彦講師を中心とした研究チームは、表面温度が約8400℃の熱い恒星TOI-1355に注目しました。この恒星は、宇宙望遠鏡TESS(注2)の観測によって周期が約2日の周期的な減光が捉えられていました。この減光は、惑星が恒星の手前を横切るトランジットだけでなく、2つの恒星(連星)がお互いを隠す現象(食連星)でも起こりえます。そのため、TESSの観測のみでは、その天体を惑星と断定できず、あくまでも「惑星候補」として留まっていました。
周期的な減光を起こす惑星候補の正体を探るため、まず、多色同時撮像カメラMuSCAT3(注3)が搭載されたアメリカ合衆国・マウイ島の2m望遠鏡を含む、様々な地上望遠鏡でトランジット観測を行いました。その結果、減光の原因が食連星ではなく、本物の惑星のトランジットである可能性が高いことを示しました。
続いて、惑星候補の質量を測定するため、TESSのデータから、惑星候補が恒星の周りを1周する間の恒星と惑星の明るさの足し合わせの変化(図2)を調査しました。その明るさの変化から、惑星候補TOI-1355bの質量が木星の約5.8倍であることが分かり、惑星(ホットジュピター)であることが確定しました。また、惑星が恒星の後ろに隠れることによる僅かな減光(二次食)も捉えましたが、円軌道では説明できないタイミングで発生していました。解析の結果、TOI-1355bがやや歪んだ楕円軌道を描いていることが判明し、これまで発見された熱い恒星周辺のホットジュピターとしては非常に珍しい特性であることが分かりました。TOI-1355bは円軌道へ変化する途中にある惑星と考えられます。この惑星の発見は、熱い恒星周りのホットジュピターが、高離心率移動を経て恒星の間近まで移動したという理論を裏付ける成果といえます。
(掲載論文の図6を改変して引用)
さらに今回の研究では、TOI-1355bの軌道がコマのように首振り運動をする「惑星軌道歳差」という、系外惑星では5例目となる珍しい現象を検出しました。この現象によって、視線の向きに対する軌道面の傾きが少しずつ大きくなっており、1901年頃から始まった「トランジット観測が可能な時期」が、2033年半ばに終了すると推測されます(図3)。今回の研究においては、恒星の前を通らなくなる直前という絶妙なタイミングで、幸運にもTOI-1355bを発見できたといえます。
今後、すばる望遠鏡やジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の観測によって、TOI-1355bの大気組成や惑星軌道の詳細な解明が期待されますが、その要となるトランジット観測を行える猶予があと7年と迫っているため、早急な観測が望まれます。
発表者・研究者等情報
東京大学 大学院総合文化研究科
広域科学専攻
渡辺 紀治 特任研究員(日本学術振興会特別研究員-PD)
成田 憲保 教授
兼:同大学院先進科学研究機構 教授
兼:自然科学研究機構アストロバイオロジーセンター 客員教授
福井 暁彦 講師
兼:同大学院先進科学研究機構 講師
論文情報
雑誌名:Publications of the Astronomical Society of Japan
題名:Discovery of an Eccentric Hot Super-Jupiter Leaving the Transiting Geometry of the Early-A-type star TOI-1355
著者名:Noriharu Watanabe, Norio Narita, Akihiko Fukui, et al.
DOI:10.1093/pasj/psag103
研究助成
本研究は、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費:課題番号JP24H00017、JP24H00242、JP24K00689、JP25K17450、JP25KJ0091、JP25KJ1036)、JST次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号JPMJSP2108)、および日本学術振興会二国間交流事業(課題番号JPJSBP120249910)等の支援により実施されました。
MuSCAT3は、アストロバイオロジーセンターで開発・運用されている観測装置で、日本学術振興会科学研究費助成事業(科研費:課題番号18H05439)と科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(さきがけ:課題番号 JPMJPR1775)の支援のもとで開発されました。
用語解説
(注1)ホットジュピター
恒星のすぐそばで10日以内に公転する木星サイズの系外惑星です。系外惑星とは太陽以外の恒星の周りを公転する惑星全般を指します。なお、1995年に初めて発見された系外惑星は約4日で公転するホットジュピターでした。
(注2)宇宙望遠鏡TESS
トランジットする惑星を発見するために、2018年に打ち上げられたNASAの宇宙望遠鏡です。TESSは、恒星の周期的な減光を検出することで、惑星候補を見つけ出します。TESSが今までに検出された系外惑星の候補は約8000個であり、そのうち約900個は本物の惑星であることを確認しました。
(注3)MuSCAT3
MuSCAT3は、東京大学の成田憲保教授と福井暁彦講師らが中心となって開発・運用を行っている、複数の波長帯で同時に観測できる撮像装置MuSCATシリーズの3号機です。初号機(MuSCAT)、2号機(MuSCAT2)、4号機(MuSCAT4)は各々、岡山県の188cm望遠鏡、スペイン・テネリフェ島の1.52m望遠鏡、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の2m望遠鏡に装着されています。MuSCATはMulticolor Simultaneous Camera for studying Atmospheres of Transiting exoplanetsの略で、初号機のある岡山県の名産マスカットにちなんで名付けられました。

