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2026.09.30
【研究成果】音波と電荷の波が生み出す電流 ──高感度ひずみセンシングへ道──
2026年9月30日
大阪大学
東京大学
研究成果のポイント
- 結晶がひずんで電子が秩序化した状態である「電荷密度波※1状態」を示す層状物質※2を圧電基板上に転写し、固体中を伝わる音波の一種である表面弾性波※3を照射すると、電荷密度波転移に伴って大きさや符号が大きく変化する直流電流(音響電流※4)が発生することを発見。
- 温度依存性とモデル計算から、音響電流はひずみによる電気の流れやすさの変化に起因しており、その大きさは電荷密度波転移によって10倍以上大きくなることを実証。
- 高感度ひずみセンシングデバイスへの応用に期待。
概要
大阪大学大学院理学研究科物理学専攻の二階堂夏海さん(研究当時:博士前期課程2年)、川田拓弥さん(研究開始当時:日本学術振興会特別研究員PD、現在:東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻助教)、高田真太郎准教授、新見康洋教授、同先導的学際研究機構の近藤浩太准教授らの研究グループは、固体中を伝わる音波の一種である表面弾性波を用いて、電荷密度波状態を示す層状物質へ時空間的に変化するひずみを照射することで、音響電流と呼ばれる直流電流が流れ、さらに電荷密度波状態ではその大きさや符号が大きく変化することを発見しました。
表面弾性波は、圧電基板に交流電圧をかけることで発生でき、スマートフォン等の高周波フィルタとして広く応用されています。また、固体表面の状態に敏感であることから、センシング応用に向けた研究が盛んに行われています。
研究グループは、粘着テープを用いた機械的剥離法により、層状物質を劈開(特定方向に割ること)して薄膜化し、圧電基板LiNbO3に転写しました。その後、LiNbO3基板上に準備しておいた櫛形電極に交流電圧を加えることで、層状物質薄膜に表面弾性波を照射しました(図1左)。すると、層状物質薄膜中に音響電流と呼ばれる直流電流が流れることがわかりました。今回用いた層状物質は、ある温度以下で結晶がひずみ、電子が秩序化した電子状態である「電荷密度波状態」を示します。発生する音響電流の温度依存性を測定した結果、電荷密度波状態になると音響電流の符号が変化したり大きさが増大したりすることを発見しました(図1右)。
さらに研究グループは、実験結果とモデル計算を照らし合わせることで、音響電流の発生は層状物質がひずむことで電気の流れやすさが変化することに由来することを突き止め、電荷密度波状態ではその変化の大きさが電荷密度波状態になる前の10倍以上にも増幅されることを明らかにしました。この結果は、ひずみを用いた電子制御の研究を進展させ、高感度センシングデバイス応用への道を開くものです。
本研究成果は、米国科学誌『Physical Review B』(オンライン)に、Editors' Suggestionとして、2026年9月30日(水)午前3時(日本時間)に公開されました。
研究の背景
固体表面を伝わる音波である表面弾性波は、圧電基板へ交流電圧をかけることで簡単に励起でき、かつ波長がマイクロメートル程度と短いためにデバイスを小型化できることから、通信分野における高周波フィルタをはじめとして応用上非常に重要な技術です。
電気を流す物質に表面弾性波を当てると、表面弾性波の進行方向に音響電流と呼ばれる直流電流が流れることが知られています。近年では、特に層状物質の一種であるグラフェンにおける音響電流が盛んに研究されており、簡単な直流測定でグラフェンの状態が検出できることからセンシングへの応用が期待されています。
グラフェン以外の様々な層状物質でも音響電流は発生するはずですが、意外にもこれまであまり研究例がありませんでした。
研究の内容
研究グループは、電荷密度波転移を示す層状物質を機械的に剥離して薄膜を作製しました。その薄膜を圧電基板LiNbO3上に転写し、さらに基板上に準備した櫛型電極に約300 MHzの交流電圧を印加することで、表面弾性波を層状物質薄膜に照射し、その時に発生する音響電流を評価しました。
図2に、電荷密度波転移を示す一次元鎖層状物質であるNbSe3における結果を示します。表面弾性波を照射した時のみ、音響電流に由来する直流電圧が発生することがわかりました(図2左)。さらに、温度依存性を測定したところ、電荷密度波転移に伴って音響電流の大きさや符号が大きく変化することを発見しました。さらなる実験結果とモデル計算を組み合わせた解析の結果、音響電流は歪みによる電気伝導度の変化率を反映しており、その大きさは電荷密度波状態に転移する前と比較して10倍以上にものぼることを明らかにしました(図2右)。
本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)
層状物質に音波を照射することで、ひずみを利用した電子状態の研究がさらに進展することが期待できます。また、高感度ひずみセンシングデバイスへの応用など、機能性デバイスの創出が期待されます。
特記事項
本研究成果は、2026年9月30日(水)午前3時(日本時間)に米国科学誌『Physical Review B』(オンライン)にEditors' Suggestionとして掲載されました。
タイトル:"Significant modulation of acoustoelectric current associated with charge density wave transitions"
著者名:Natsumi Nikaido, Takuya Kawada, Koji Fujiwara, Jihoon Park, Nan Jiang, Kouta Kondou, Shintaro Takada, and Yasuhiro Niimi
DOI: 10.1103/19zf-xskg
なお、本研究は、科学研究費(JP22KJ2180, JP22J20076, JP23H00257, JP23KJ1419, JP24K23028, JP25H01613, JP25H02122, JP25K17907)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2134)、東北大学電気通信研究所 共同プロジェクト研究の支援の下、行われました。
用語説明
※1 電荷密度波
主に低次元(一次元や二次元)金属や半導体で見られる、固体中の電子が周期的に集まったりまばらになったりすることで電子密度が空間的に波のように変化する状態を指す。
※2 層状物質
炭素一原子からなるグラフェンと、その積層であるグラファイトのように、二次元的な広がりを持った原子の層がファンデルワールス力で弱く結合して積層した物質。粘着テープを利用して機械的に薄くすることができ、原子スケールの機能性デバイスへの応用が期待されている。
※3 表面弾性波
固体表面を伝わる音波の一種。本研究では、圧電基板であるLiNbO3上に、互いに入れ違いになった櫛型の電極を作製し、約300 MHzの交流電圧をかけることで、基板のひずみを利用してレイリーモードと呼ばれる表面弾性波を発生させた。
※4 音響電流
金属や半導体に音波を当てた時に試料中を流れる直流電流。音波の進む向きを逆向きにすると符号が反転し、その大きさは音波のパワーに比例する。

