HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報672号(2026年5月 7日)

教養学部報

第672号 外部公開

〈後期課程案内〉 法学部 法学・政治学を学ぶということ

法学政治学研究科長・法学部長 橋爪 隆

https://www.j.u-tokyo.ac.jp/

 東京大学法学部の原点は、一八七三年に東京開成学校に設置された法学科に遡ります。その後、一八七七年に東京開成学校と東京医学校との合併により、東京大学が創設された際に、法学部が設けられました。創設以来、日本における法学・政治学の教育研究の中核として、各界に多くの優れた人材を輩出してきたことは、今さら言うまでもないと思います。

 法学部では、法学と政治学を専門的に学ぶことができます。法学・政治学は、社会を扱う社会科学の一つであり、異なる価値観・立場・利害・バックグラウンドを持つ多様な人が存在する社会において、その課題や紛争をどのように解決するのかを考える学問です。解決に向けた「規範」(ルール形成)に着目するのが法学であり、政策や意思の決定過程の「現象」に着目するのが政治学です。法学および政治学は、長い歴史と膨大な議論の蓄積のもとに、「社会で生じる様々な問題がどのように解決されるべきか」を探究し、社会における問題を解決している規範や考え方、社会事象を分析するための思考枠組を探究するものです。したがって、法学・政治学を学ぶことは、社会における問題や課題を発見し、その本質を理解した上で、解決のための方法を議論し、社会の制度をデザインすることを修得するプロセスでもあります。昔から「法学部出身者は『つぶし』が効く」と言われてきました。あまりよい表現ではありませんが、法学部で学んだ人は、将来の選択肢が豊かであり、社会の様々なポジションや局面に応じて、これまで学んできた知見やスキルを応用的に活用できる余地が大きいという意味でしょう。このように法学部出身者が、組織をマネージメントする人材として、社会的に重要な地位を占めてきたことも、社会制度をデザインする学問としての法学・政治学の性格と密接に関連しています。

 さらに、たとえば生成AIや自動運転などの科学技術の進展においても、それを社会において実用に供するためには、明確なルールを形成し、個人の尊厳や自由などの基本的な価値との調和を図ることが不可欠です。たとえば自動運転を導入するためには、自動運転に関する社会のニーズや懸念を十分に考慮した上で、いかなるリスクまでを社会が許容できるかを慎重に見極め、さらに万が一、事故が生じた場合の解決方法を合理的に制度設計する必要があります。これらはすべて法学および政治学が担うべき課題です。このような意味で、法学・政治学は専門家だけに閉じられた学問ではありません。他の研究分野とも密接に連携しながら、社会的なニーズを汲み取り、それに基づいてルールを形成するための学問であり、まさに社会に開かれ、たえず発展・変化し続けているのです。

 私個人は、刑法を専門的に研究しています。刑法とは、犯罪と刑罰に関する法律です。したがって、刑法学の議論は、いかなる目的や根拠に基づいて、国家が国民に刑罰を科すのか、あるいは、行為者はいかなる場合に刑事責任を負うべきなのかという根源的・哲学的な問いかけから始まります。その上で、具体的な事案に即して、行為者がどのような罪責を負うべきかについて、刑法典の条文の内容を合理的に解釈し、さらに、必要に応じて、裁判所の先例(判例といいます)を分析したり、外国法の知見などを参考にしたりしながら、適切な判断基準を提示するべく、研究を続けています。最近では、性犯罪に対する処罰規定や危険運転致死傷罪の改正などの刑事立法に関与する機会にも恵まれています。人を非難し、処罰するということは、本能的・感覚的に是認される側面もあるため、その根拠や限界を論理的に突き詰めて考えることには難しさもありますが、多角的な観点から問題状況を分析し、実際の刑事裁判で利用できるような理論や基準を提示することには、知的な面白さがあります(刑法の授業は、二年生のSセメスターから、法学部専門科目として駒場キャンパスで開講されています)。

 法学・政治学に少しでも関心がある学生のみなさんには、ぜひ前期課程在学中に、法学・政治学に関連する授業を積極的に履修していただきたいと思います。教養学部でも法・政治に関する授業が提供されていますが、法学部の教員も、オムニバスの入門的な講義として、総合科目「現代と法」、「現代と政治」を開講しているほか、社会科学ゼミナール(法・政治)や全学自由研究ゼミナールとして、法学・政治学に関する授業を開講しています。これらの授業を履修して、法学・政治学に関心を持っていただき、法学部に進学していただければ、法学部長としては有り難い限りですが、かりに他学部に進学されるとしても、法的な思考方法を理解することは、既に述べたように、他分野の研究や実務にとっても重要な意義があると考えています。このエッセイが、みなさんが法学・政治学を学ぶ契機になれば、本当にうれしく思います。

(法学部/刑法)

第672号一覧へ戻る  教養学部報TOPへ戻る

無断での転載、転用、複写を禁じます。

総合情報