HOME総合情報概要・基本データ刊行物教養学部報672号(2026年5月 7日)

教養学部報

第672号 外部公開

〈後期課程案内〉 理学部 知的好奇心が拓く理学

理学系研究科長・理学部長 田近英一

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/

 東京大学で学ぶ皆さんは、学ぶことそのものを楽しいと感じる人が多いのではないでしょうか。おそらくそれは、いままで知らなかったことを知ることができたり、わからなかったことがわかるようになったりすることが、皆さんの知的好奇心を刺激し、楽しいと感じるからではないでしょうか。

 理学は、英語でサイエンス(science)。私たちを取り巻く自然界の理(ことわり)を探究する学問であり、自然科学の中核をなします。数学、物理学、化学、生物学、地学などの基礎分野を柱として、自然界で生じるさまざまな現象や自然法則の理解をめざす、人類の知的好奇心に根ざした営みです。「知りたい」という思いが理学研究の出発点であり、その探究を通して普遍的な真理への理解を深め、人類の世界観の形成に大きく寄与してきました。

 理学部では、「それは何なのか」「どうしてそうなるのか」といった素朴な疑問から出発して、地球環境や生物、物質といった身近な対象から、宇宙の始まりや素粒子の世界まで、自然界のさまざまな謎を解き明かしていきます。その原動力こそが、知的好奇心です。知を深め、好奇心をめぐらせることで、人類がまだ誰も答えを知らない問いや、まだ誰も考えたことのない重要な問いにたどり着き、それを明らかにしたいと思うようになります。それこそが理学研究です。

 理学には、人類の世界観や価値観に深い影響を与え、人々に大きな夢をもたらす側面があります。宇宙や生命の起源と進化をめぐる問いは、その代表例です。たとえば太陽系外惑星の発見は、私たちの宇宙観を大きく変えました。地球や太陽系のような惑星系は宇宙に広く存在することが明らかになりつつあります。現在、太陽系外惑星の大気に生命活動の痕跡を探ろうとする観測的研究や将来計画が世界中で進められています。もしいつの日か、地球外生命の存在が確認されることがあれば、人類の宇宙観はさらに大きく変わることになるでしょう。このような、人類の自然観や世界観を大きく変えうる科学的探究は、理学の魅力を象徴しています。

 理学は社会の役に立つことを第一の目的とする学問ではありません。しかし、そこで得られた知見は、長い年月を経て、あるいは思いがけない形で、産業や社会の発展に大きく貢献してきました。レーザー、半導体、MRI(磁気共鳴画像法)、mRNAワクチン、AI(人工知能)など、現代社会を支える多くの革新的技術も、その源流をたどれば基礎科学の研究に行き着きます。量子コンピュータや核融合エネルギーといった次世代技術も、基礎科学の発展の上に築かれています。

 東京大学は一八七七年に創設されましたが、理学部はその際に設置された四つの学部の一つです。現在、理学部には十の学科(数学科、情報科学科、物理学科、天文学科、地球惑星物理学科、地球惑星環境学科、化学科、生物化学科、生物学科、生物情報科学科)があり、大学院理学系研究科には五つの専攻(物理学専攻、天文学専攻、地球惑星科学専攻、化学専攻、生物科学専攻)が置かれています。理学部・理学系研究科では、自然界で生じる現象や基本法則などを明らかにするべく、世界最先端の研究と教育が展開されています。そして、ノーベル賞受賞者をはじめ世界をリードする研究者や社会に貢献する優秀な人材を数多く輩出してきました。

 研究テーマも実に多様です。たとえば、遠方宇宙の観測から銀河と巨大ブラックホールの進化史を解き明かす研究、岐阜県神岡の地下観測施設でニュートリノや重力波を観測して星の内部で起きている現象や中性子星の合体現象を探る研究、地震波の解析から地震現象の性質や地球内部の構造を明らかにする研究、化石記録から恐竜と鳥類の関係を明らかにする研究、新しい物質の性質を量子力学にもとづいて解明する研究、細胞の中で生体分子がどのように働くのかを分子レベルで理解する研究など、自然界のさまざまなスケールにわたる問いに取り組んでいます。

 理学部での学びの特徴は、自分の頭で問いを立て、それを検証していく過程を実際に体験できることです。観測や実験、理論研究、数値シミュレーションなどさまざまな方法を用いて自然の謎に迫り、得られた結果を論理的に考察していきます。まだ誰も答えを知らない問いに向き合い、自分自身の力でその理解に一歩近づく─それはまさに心が躍るような知的冒険です。その過程で、課題発見力、論理的思考力、問題解決力、プレゼンテーション能力など、社会から強く求められている力も身につけることができます。

 学部卒業後は、ほとんどの学生が大学院に進学して研究を続けます。その後は大学や研究機関で研究者として活躍する人もいれば、民間企業で最先端の技術開発に携わる人もいます。情報、金融、コンサルティング、メディア、教育、行政など、多種多様な分野で活躍している卒業生もたくさんいます。
二〇二七年(令和九年)は、東京大学および理学部の創設一五〇周年にあたります。次の一五〇年の理学を切り拓くのは、これから理学を志す皆さんです。

(理学部長/地球惑星科学)

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